研究課題/領域番号 |
16K18729
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中沢 威人 京都大学, 農学研究科, 助教 (80608141)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木材腐朽 / リグニン / キノコ / 担子菌 |
研究実績の概要 |
【リグニン生分解に不全をきたす原因変異の特定】 現在までに、ブナ木粉中のリグニン生分解に欠陥をきたす原因変異遺伝子として3遺伝子(pex1、chd1、wtr1)が確定できた。この中で、pex1とchd1は、白色腐朽(多糖よりもリグニンを優先的に生分解する)を起こさないことが観察された。実際に、腐朽前後におけるリグニン含有率変化からも、そのことは支持された。ブナ木粉培地上で培養した菌体から抽出したRNAを用いたRNA-seq解析(野生株vs変異体)を行ったところ、過酸化水素供給に関わる酵素ならびに特定種類のレクチンをコードする遺伝子などが、複数の変異体で共通して著しく転写減少することを発見した。現在、これら単独ならびに多重遺伝子破壊株を作成し、リグニン生分解能力への影響を観察しているところである。また興味深いこととして、白色腐朽しないpex1ならびにchd1破壊株では、同時に子実体発生開始にも不全をきたした。その一方で、wtr1破壊株は(ブナ木粉に対して、小麦ふすまを比較的多量に添加した木粉培地上では)白色腐朽および子実体発生開始に影響はなかった。 また、新たに得た多数のRBBR脱色不全突然変異体の中から、実際のブナ木粉に対する白色腐朽に影響があるものを選び出し、現在原因変異遺伝子の特定を行っている。 【多糖分解酵素遺伝子の破壊が、リグニン生分解に与える影響】 多糖加水分解酵素をコードする遺伝子を、合計7種類単独破壊した。その結果、一つの遺伝子破壊株において白色腐朽不全が観察された。現在、詳細な木質化学分析を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
リグニン生分解に欠陥を生じる原因変異遺伝子の同定および遺伝子破壊株の取得は、予想通りに進んでいる。 さらに申請時の範囲を超えて、トランスクルプトームおよびリグニン化学分析までを組み合わせて、順遺伝学研究知見の結果に基づいた、逆遺伝学アプローチからも、新たな白色腐朽に重要な遺伝子の候補を多数発見することに成功した。一方、多糖分解酵素の単独破壊株によって、白色腐朽に重要な多糖分解酵素を特定しつつある。これも、申請当初の予想どおりの結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1.昨年度までに分離した突然変異体の変異原因遺伝子を確定させる(相補形質転換もしくは遺伝子破壊まで行う) 2.RNA-seqにおいて、突然変異体で共通して転写不活性化している遺伝子を破壊し、白色腐朽への影響を調べる 3.上記を通して、本研究助成を受けて得られた結果を含んだ論文を、最低3報は発表できるようにデータを整える
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の学会(木材学会)への参加・成果発表にかかる旅費をもって全額使い切る予定であったが、諸事情により1日早く帰る必要が出てきた。そのぶん1泊の宿泊代が余ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究のさらなる進展のために、消耗品として使用させて頂く。
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