今後の研究の推進方策 |
昨年度までの検討で、誘導体化反応から見積もられるイオン液体-セルロース鎖間相互作用に十分な信頼性があることが示された。そこで、従来はあまり解析が進んでいない種々のイオン液体や、計算化学的なアプローチが困難な多成分系に対して同様の検討を重ね、相互作用の位置選択性を見積もる手法を構築する。近年、セルロースを溶解するイオン液体系溶媒の開発において、分子性溶媒の混合が1つのトレンドとなり、関連研究が大きく進展している。例えば、イオン液体に共溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を混合すると、セルロース溶解能が向上することが報告されている[J. M. Andanson et al., Green Chemistry, 16, 5, 2528-2538 (2014)など]。また、申請者らが開発した、優れたセルロース溶解能を示すアルキルオニウム含有水酸化物水溶液[M. Abe et al., Chemical Communications, 48, 12, 1808-1810 (2012)など]に関しても、クラウンエーテルなどの他成分の共存によってセルロース溶解能が向上することが報告されている[T. Ema et al., RSC Advances, 4, 5, 2523-2525 (2014)など]。このような他成分系の相互作用解析においては、従来法では計算が困難な場合が多い。そのため、本研究で見出された、誘導体化反応からの相互作用解析というアプローチの適用は大きな意義を有すると考えられる。 また、当初の計画のとおり、さらに多様な物性を示すイオン液体の系統的な合成に関しても継続して研究を進める。アセチル化反応以外に、種々のエーテル化反応(ブチル化、ベンジル化など)にも検討の幅を広げる。誘導体の構造解析と並行して、NMRなどの分光学的なアプローチからも相互作用を見積もり、誘導体化反応から見る相互作用解析の妥当性と新規性を評価する。
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