昨年度までの検討で、誘導体化反応から見積もられるイオン液体-セルロース鎖間相互作用に十分な信頼性があることが示された。本年度は、種々のイオン液体への本系の適用を検討すると共に、セルロース溶剤として近年注目を集めているテトラアルキルホスホニウム水酸化物について、セルロースのエーテル化反応を用いた相互作用解析を検討した。 まず、イミダゾリウムカチオンを有するブロミド塩とジシアナミド塩を合成した。これらのイオン液体はいずれもセルロースとの良好な親和性が報告されているものの、その溶解度は非常に小さく、クロライド塩や酢酸塩と同様の条件でアセチル化反応を行うことができなかった。反応の条件が同一でないため、十分なセルロース溶解能を示さないこれらのイオン液体についてはクロライド塩等と分けて考察する必要がある。 次に、非常に優れたセルロース溶剤であるテトラブチルホスホニウム水酸化物の水溶液を用いて同様の研究を行った。当該水溶液はアルカリ性を示すためエステル結合が加水分解を受ける。そこで、アルカリに耐性を持つベンジル化反応を利用した。検討の結果、当該溶媒中では非常に高効率にベンジル化反応が進行し、非加熱条件化においても置換度の値は2.7に達した。これは、当該水溶液がセルロース水酸基と強力に相互作用してこれを活性化させていることを示す。また、置換気分布を見積もったところ、イオン液体中でのアセチル化の場合と異なり、C6位よりもC2、C3位の方が高い置換度を示した。イオン液体と水酸化物水溶液はいずれも強力なセルロース溶剤でありながら、セルロース水酸基との相互作用のあり方が異なることを示している。類似の構造を有する種々の溶媒について同様にアセチル化やエーテル化を行うことで、相互作用の詳細についてさらなる知見が得られるものと期待され、本研究で提案した手法の有用性が示されたと言える。
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