研究課題
広葉樹樹幹における年輪構造は非常に複雑で多様である。これは、広葉樹の形成層細胞が様々な種類の二次木部細胞に分化するためである。本研究では、広葉樹における二次木部細胞の分化制御機構を解明することを目指し、広葉樹の形成層帯における植物ホルモンの量的分布パターンと二次木部細胞の形成位置との関連性を明らかにすることを目的としている。平成29年度は、実験1:人為的に特異な二次木部を形成させる処理条件の検討、実験2:形成層帯における細胞・組織単位での植物ホルモンの定量方法の検討、を行った。休眠期落葉広葉樹コナラ苗木に対し、局所的加温とオーキシン(NAA)塗布の組み合わせ処理を行い、木部形成に与える影響を光学顕微鏡および画像解析ソフトを用いて解析した。40日間の加温処理によって開芽前に早期に形成層活動と木部形成が誘導されていた。複合処理開始38日目には、加温+NAA塗布の複合処理個体では加温処理のみ個体に比べ、小径の道管が多数形成されていた。道管は、両処理個体とも前年の孔圏外道管が配列した列とほぼ同じ放射列に形成されていた。これらの結果から、休眠期コナラ苗木に対する局所的加温とNAA塗布の複合処理によって、道管のサイズや数を変化させることが可能であるといえる。一方、複合処理は道管形成の位置パターンには影響しないといえる。本処理条件を、今後の解析に用いる予定である。植物ホルモンの定量方法を確立するために、コナラ樹幹から採取した形成層帯を含む凍結ブロック試料からの連続切片作製方法の検討を行った。柾目面、板目面ともに最適な切片の厚さを決定し、切片レベルでオーキシンの定量が可能であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
人為的に特異な二次木部を形成させる条件の検討では、休眠期コナラ苗木樹幹に対する局所的加温とNAA塗布の複合処理によって、道管の径が減少、道管数が増加することが分かった。一方、道管の形成位置には変化が認められなかった。また、処理に必要な日数も特定することができた。従って、今後の解析に用いる処理条件および処理期間を明らかにすることができたといえる。形成層帯における細胞・組織単位での植物ホルモンの定量方法の検討では、具体的に連続切片を作製する際の手順や最適な切片厚を決定することができた。しかしながら、植物ホルモンの抽出後の連続切片からの組織構造の再構築については、プレパラート作製や染色方法についてさらに検討する必要がある。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
平成30年度は、形成層帯における植物ホルモンの分布パターンと木部細胞の形成位置との比較、解析を行う。平成29年度に検討した切片作製および定量方法を用いて、これまでに採取を完了したコナラおよびギンドロにおける自然条件下での植物ホルモンの分布パターンを解析する。また、これまでに検討した処理条件を用いて人為的に特異な木部形成を誘導し、処理下での植物ホルモンの分布パターンの解析を行う。
予定していた一部の内部標準の購入が延期になったため次年度使用額が発生した。次年度植物ホルモンの定量分析を重点的に行うための内部標準やカラム等の購入代に充て、植物ホルモンの分布パターン解析を進める。
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10.1007/s00468-018-1667-2