研究課題
広葉樹樹幹における年輪構造は非常に複雑で多様である。これは、広葉樹の形成層細胞が様々な種類の二次木部細胞に分化するためである。本研究では、広葉樹における二次木部細胞の分化制御機構を解明することを目指し、広葉樹の形成層帯における植物ホルモンの量的分布パターンと二次木部細胞の形成位置との関連性を明らかにすることを目的としている。本年度は、落葉広葉樹環孔材のハリエンジュ(Robinia pseudoacacia)を対象に樹幹部の内生オーキシン(IAA)量の季節変動と年輪形成および葉のフェノロジーとの関連性の解析を行った。一列目の大径道管の形成が終了し、道管径が徐々に減少する6月下旬から8月上旬において最も活発に木部の生産が行われていた。また、大径道管形成期間は木部生産量に関して個体間差がほとんど認められなかったが、孔圏外形成時期の6月下旬から8月上旬では木部生産量に著しい個体間差が認められた。これらの結果から、この時期の形成層細胞の分裂頻度が当年の年輪幅に影響を与えるといえる。開芽は当年の道管形成開始後の5月上旬に認められ、8月上旬まで新葉の展開が認められた。また、7月~8月上旬には落葉が始まり、形成層活動が休止した後の11月上旬でもわずかに着葉が認められた。一方、内生IAA量は季節によって変動しており、孔圏外部形成時期に年間の最大値を示していた。しなしながら、内生IAA量やその量的変動と木部の生産量や道管形成パターンとの間に明瞭な関連性は認められなかった。これらの結果から、ハリエンジュにおける形成層活動や道管配列パターンの形成は内生IAA量やIAA量の変動だけで制御されているわけではないことが示唆された。これらの成果は、落葉広葉樹における年輪構造形成の制御機構に関する新たな基礎的知見であるといえる。
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IAWA Journal
巻: 30 ページ: 353-371