研究課題/領域番号 |
16K18735
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今 孝悦 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40626868)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 砂浜 / 安定同位体 / 底生動物 / 異地性流入 |
研究実績の概要 |
砂浜域は、地球上の氷結しない海岸線の約70%を占める重要な海域であり、食糧供給や水質浄化作用、レクリエーションなどの高い生態系サービスを有する。しかし、そうした機能の拠所となる生物生産機構については踏み込んだ議論がなされておらず、その理解は大きく立ち遅れている。本研究では、既往研究に基づき、砂浜域の生物生産が、隣接海域や陸域から流入する漂着物に依存すると考える。そして、そのような漂着物が、餌資源としてだけではなく、生物に隠れ家や巣穴の材料を提供することで空間資源として機能すると仮定し、その役割を検証することを目的としている。 本年度は漂着物の有無と底生動物の分布状況の対応関係を記載した。調査は静岡県下田市近傍の鍋田、外浦、田牛および白浜の4つの砂浜域にて、海藻類の漂着が多い5月および9-10月に行った。まず、各砂浜域の物理環境要因の把握のため、水温、塩分、海藻被度、底質の含水率、底質の粒径、底質の強熱減量を測定した。その結果、それら要因は季節変動が大きいものの、砂浜域間での明瞭な相違は認められなかった。また、漂着物はほぼ海域から流入する海藻であることが判明した。従って、以降の調査では漂着物を海藻類に絞り、4つの砂浜域は結果の一般性を高めるためのリプリケイトとして扱うのが妥当であると判断された。 次いで、漂着物の有無に対応した底生動物の分布状況を把握するため、漂着物がある地点(海藻区)とそれがない地点(裸地区)で底生動物を定量採集を行った。採集には直径10cm、長さ30cm のコアサンプラーを用いて、底砂ごと採集し、それを目合い1mm メッシュでふるい、メッシュ上に残った底生動物を採集した。これを10%中性ホルマリンで固定し、種同定、計数及び評量した。その結果、底生動物の種数、個体数、生物量は、いずれの砂浜域でも海藻区で有意に大きく、砂浜域での漂着海草の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予測に反して4つの砂浜域での環境要因の相違は僅かであったが、漂着海藻の有無によって底生動物の群集構造が予想以上に異なっており、漂着物の機能の重要性を支持する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は底生動物の生物生産に対する漂着物の機能を野外操作実験にて直接提示する。野外操作実験は、特にアクセスの容易な鍋田を用いることで、高頻度で実験区のメンテナンスを施す。 野外実験では、漂着物の種類を操作した4つの実験区(30×30cm)をそれぞれ20区画ずつ設ける。各実験区の内訳は、優占漂着物である褐藻類のカジメを設置し、餌資源と空間資源の双方の機能を持たせた「天然海藻区」、カジメの形状を模倣した褐色ビニールを設置し、空間資源としての機能のみを持たせた「人工海藻区」、そして、漂着物を設置しない「裸地区」である。設置後、以下の頻度で今年度と同様の手法で底生動物を採集し、かつメンテナンスを施す。各実験区から、5区画ずつ3日おきに底生動物を採集し、設置前と合わせて計5回のデータをとる(設置前、3日後、6日後、9日後、12日後)。予備調査から、砂浜域の底生動物は、漂着物の流入7日後には最大密度に達することが判明しており、12日間は十分な試験期間である。また、採集した底生動物を胃内容分析および安定同位体分析に供し、餌資源としての利用の有無の裏付ける。これらの検討により、底生動物に対する漂着物の機能を、餌資源と空間資源の両側面から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査の結果、4つの砂浜域の物理環境要因が類似していたことが判明し、それら4砂浜域を一般性を高めるためのリプリケイトとして扱うこととした。このため砂浜域間での詳細な比較が不要となり、測定項目が減じたことで経費に余剰分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
砂浜間の調査項目を減じる一方で、次年度に予定していた野外操作実験の検討項目を追加することで一般性を担保する。この追加項目を測定するために余剰分を使用する予定である。
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