陸域から沿岸域に流入した除草剤が、珪藻・鞭毛藻等のプランクトンの遷移に及ぼす影響は明らかになっていない。本研究は、除草剤が珪藻と鞭毛藻の競合関係に及ぼす影響を明らかにする事を目的とし、昨年度に引き続き赤潮が発生する福山港における海水中の除草剤濃度を測定すると共に、検出された除草剤に対する珪藻および鞭毛藻の感受性の差異を検討した。6から7月を中心に合計23回、田尻港、芦田川河口域及び芦田川河口堰上流の環境水を採取し、10種類の除草剤濃度を測定した。その結果、ブロモブチド(<30-222 ng/L)、ブロマシル(<56-224 ng)、プレチラクロール(<15-86 ng/L)、シアナジン(<39-95 ng/L)イルガロール(<17-30 ng/L)の5種が検出され、6月から8月が比較的濃度が高い傾向が認められた。また、作用機構の異なる11種の除草剤について、鞭毛藻ヘテロシグマ及び珪藻キートセロスに対する毒性を検討した結果、光合成阻害の作用を持つ3種の除草剤(ジウロン、ブロマシル、アイオキシニル)及び微小管重合阻害の作用を持つトリフルラリンについては、ヘテロシグマよりキートセロスが2倍程度高い感受性を示し、プロトポルフィリノーゲン酸化酵素阻害作用を持つオキサジアゾンについては、逆にキートセロスよりヘテロシグマが20倍程度高い感受性を示した。そのため、これらの除草剤の曝露により海産微細藻類の優先種に変動が生じることが示唆された。その他の6物質については、今回設定した最高濃度区1000μg/Lの曝露区において、何れの藻類についても生長速度を半減させる効果は認められなかった。今回得られた環境水中濃度は藻類に影響を及ぼす濃度よりも低く、少なくとも単独で鞭毛藻赤潮に影響を及ぼす可能性は低いと想定されるものの、他要素との複合影響の可能性については引き続き検討する必要があると考えられた。
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