研究課題/領域番号 |
16K18740
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宇治 利樹 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (00760597)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸 / α-アミノイソ酪酸 / アマノリ |
研究実績の概要 |
本研究では、スサビノリのエチレン応答性機構の解析を通して、環境ストレス耐性や有性成熟機構を解明し、海苔の有用品種作出に向けた知見を得ることを目的としている。昨年度のエチレン発生剤の結果から1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)処理による成熟促進やストレス耐性獲得の効果は、ACCから合成されたエチレンの効果ではない可能性が示唆された。そこでこれらのことをさらに解析するために、陸上植物において知られているエチレン合成阻害剤などを藻体に処理し、それらの成熟に対する影響を調べた結果、以下のことが明かとなった。 ACC合成酵素の阻害剤であるアミノエトキシビニルグリシン (AVG)、α-アミノオキシ酢酸 (AOA)処理において、スサビノリの有性成熟を顕著に抑制する効果は見られなかった一方、ACC酸化酵素の阻害剤であるα-アミノイソ酪酸 (AIB) 処理により、ACCと同様に本種の有性成熟が促進されることが明らかとなった。さらにAIB処理ではACC処理時に見られたエチレンの発生は検出されず、藻体内にACCが蓄積されることが分かった。またACCと構造が類似した化合物であるシクロロロイシンやAIBの異性体であるβ-およびγ-アミノ酪酸を藻体に処理した場合、ACCやAIBで見られた有性成熟促進の効果は見られなかった。さらに新たにACC応答性を示す遺伝子としてシステインジオキシゲナーゼ遺伝子を見出した。この酵素はタウリン合成に関与することから、ACC処理による有性成熟促進や酸化ストレス耐性獲得にタウリン代謝が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究において、エチレンではなく、その前駆物質であるACCがスサビノリの有性成熟を制御している可能性が示唆された。近年、陸上植物においてもACCがエチレンとは別のシグナル伝達により根の伸長を制御していることが明かとされており、海産藻類においても同様のことが確認されたことは大変意義深い。またACC誘導における酸化ストレス耐性獲得の機構の理解に向けて、ACC処理により発現が誘導されるカタラーゼ遺伝子の過剰発現用コンストラクトを作製できた。以上のことより,順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ACCは哺乳類細胞においてグルタミン酸受容体のリガンドとして機能することが明かとなっている。スサビノリにおいてもグルタミン酸受容体が存在することがゲノムデータベースにより明らかにできたので、ACCにおける有性成熟誘導がグルタミン酸受容体を介したものかを阻害剤などを用いた実験により解析していく予定である。さらにシステインやタウリンの代謝系が有性成熟やストレス耐性に重要な可能性が示唆されたため、これらの代謝産物の測定に加えて、これらを藻体に処理した際の影響などを観察する予定である。またカタラーゼ遺伝子の過剰発現形質転換体の作製を行い、ACCにおける環境ストレス耐性機構の知見を得る予定である。
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