研究課題/領域番号 |
16K18752
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
片倉 文彦 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (10756597)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 魚類造血 / サイトカイン / 造血微小環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、魚類造血幹/前駆細胞の増殖・分化をin vitroで再現することにより、魚類における造血の分子制御機構を明らかにすることを目的とする。魚類は自然免疫と獲得免疫を具える最下等の生物である。魚類造血機構を解明することは、有効な魚病対策開発の基盤となるだけでなく、哺乳類の造血システムの理解にむけて系統発生学的視点を与えると考えられる。 本年度は初年度で得られた成果を発展させるため、以下の3点に注力した。 ①魚類の主な造血・リンパ器官である腎臓由来の線維芽細胞様細胞株と造血細胞とを共培養することにより、各細胞株の造血支持能を評価した。その結果、いずれの細胞株上でもT細胞系が選択的に増殖を示し、非自己の細胞との共培養による免疫反応が起こっていることが示唆された。 ②各種造血因子の同定および機能解析:コイIL-5/IL-3/GM-CSF様分子の組換えタンパク質を安定発現する細胞株の樹立に成功した。精製したIL-5様分子の機能を調べたところ、顆粒球やマクロファージの前駆細胞を増殖させることが示唆された。また、リンパ球造血因子IL-7の安定発現株の樹立にも成功した。さらに、哺乳類において造血幹細胞維持やT細胞分化に重要であると知られるNotchシグナルのリガンド分子をコイにおいて同定した。 ③造血幹細胞ニッチ因子の探索に向けた新たな造血幹/前駆細胞同定法の開発:コイにおける造血幹/前駆細胞の表面マーカーの同定のため細胞幹細胞因子受容体kita遺伝子を同定した。さらに、幹細胞特異的糖鎖を認識するレクチンを探索した結果、魚類腎臓中の約0.1%の細胞集団を識別可能なものを発見した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度までに樹立した細胞株における多系列にわたる造血支持能はいずれも認められず、当初予定していた細胞株を用いた造血微小環境の再現はやや困難である。一方、当初予定していた造血因子の同定は本年度までに完了しており、それらの機能解析も進展している。また、造血幹/前駆細胞の表面マーカーの探索により造血部位における極めて稀な細胞集団を分取可能な手法の開発に成功し、幹細胞研究の基盤技術となりうる進展が得られたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度までに同定した魚類造血因子の機能解析をさらに進展させ、全血球系列の細胞分化を再現可能な培養系を構築し、造血前駆細胞の分化制御機構を明らかにする。また、魚類造血幹細胞の維持機構解明に向け、本年度確立した幹細胞識別法を用いて細胞を分取し、それらの機能解析をin vitroコロニー形成試験ならびにin vivo移植実験にて行う。また、組織学的アプローチによる幹細胞の局在解析を行う予定である。
|