研究実績の概要 |
本研究は、魚類造血幹/前駆細胞の増殖・分化をin vitroで再現することにより、魚類造血の分子制御機構を明らかにすることを目的とした。最終年度においては、以下の2点に注力した。 ①各種造血因子の同定および機能解析:コイG-CSFの4つのパラログ(G-CSFa1, a2, b1およびb2)は好中球や単球の産生を促し、好中球の遊走、ROS産生能亢進、遺伝子発現変化など自然免疫機能の制御因子として働くことを明らかにした。コイIL-5/IL-3/GM-CSF様分子は、β鎖受容体を介して好塩基球や単球の前駆細胞を増殖・分化させることを示した。魚類Kit ligandが造血幹/前駆細胞の増殖・維持に関わるかを検討するため、KitlaおよびKitlbの2つのパラログを同定し、その機能を解析した。その結果、Kitlaは赤血球造血因子EPO、栓球造血因子TPOおよび好中球造血因子G-CSFb1と協同して各血球系列の前駆細胞の増殖と維持に関与することを示した。さらにリンパ系造血機構を調べるためコイIL-7(IL-7a)の機能を解析したところ、造血細胞に対して増殖活性を示さなかった。しかし、コイのIL-7パラログ(IL-7b)を同定し、IL-7bはIL-7aよりも脾臓や鰓、胸腺など多くの組織で高発現していることを明らかにした。 ②造血幹細胞ニッチ因子の探索に向けた新規造血幹細胞同定法の開発:幹細胞特異的レクチンが魚類の主な造血器官である腎臓の約0.1%の細胞に結合することを示した。そこで当該レクチン結合性腎臓細胞を分取したところ、リンパ球様の細胞や顆粒球様の細胞が含まれており、当レクチンは魚類造血幹細胞を同定・純化するには不適であると考えられた。 以上、本研究を通して魚類における造血幹細胞の新規同定法やニッチ構成細胞の同定には至らなかったものの、全ての血球系列の分化に重要な造血因子を同定することに成功し、魚類造血研究の基盤となる成果が得られた。
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