熱帯から温帯域に広く分布するアイゴ科魚類は、繁殖期の間、種ごとに特定の月齢で一斉に産卵する月齢同調産卵を行う。月齢同調産卵には月の満ち欠けに応じて約1ヶ月の周期で変化する月光の強度および照射時間が重要な環境因子であると考えられる。 平成29年度はゴマアイゴの脳内において発現する時計遺伝子として新たに2種のBmalおよび2種のClock遺伝子を同定し、これらの時計遺伝子発現の月光応答性と概月振動性について検討した。その結果、ゴマアイゴの間脳および下垂体に発現するBmalおよびClock遺伝子は月光照射の即時的な応答性は示さないものの、継続的な月光遮断条件下においてはClock遺伝子の日周発現パターンに影響を与えることが明らかとなった。これらの結果から、周期的な変化を伴う月光照射が時計遺伝子の安定的な日周変動に必要であることが考えられた。夜間の微弱な光照射が概日時計の発振機構に与える影響はあまり理解が進んでいないことから、本結果は今後重要なテーマになると考えられる。 さらに、平成28年度の成果からゴマアイゴの月齢同調産卵において砂時計型のタイマー機構の構成に重要と考えられた時計関連遺伝子の転写制御機構について調べるため、ゴマアイゴの全ゲノム配列の解読を試みた。Illumina HiseqによるショートリードシーケンスとOxford Nanopore MiNIOMによるロングリードシーケンスを組み合わせたHybrid assembleを行った結果、5313本のscaffoldから成る約635Mbpの全ゲノムアッセンブリー(N50=537728)を構築することができた。時計関連遺伝子のうち特に月齢同調産卵に重要と考えられるCry3の上流配列にはROREに相同な配列に加え、E-Boxに相同な配列も確認できることから、Cry3の転写制御には複数の時刻関連情報が統合されている可能性があった。
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