EPA・DHAによる蛋白質の細胞内局在制御機構に着目し、マウスメラノーマ細胞(B16F10)を用いて、メラニン抑制作用および腫瘍増殖抑制作用の解明に取り組んだ。 メラニン抑制のメカニズムに関しては、B16F10細胞内でのチロシンからドーパへの代謝が抑制されること、メラニン合成酵素であるチロシナーゼ(Tyr)およびチロシナーゼ関連蛋白質(Tyrp1)の膜局在が抑制されることを見出し、EPA・DHAが膜に局在するメラニン合成酵素を減少させることでメラニン合成を抑制していることを明らかにした。腫瘍増殖抑制に関しては、B16F10細胞の細胞周期遅延とG2/M期細胞の増加を引き起こすことを明らかとし、EPA・DHAによるG2/M期遅延によってB16F10細胞の増殖が抑制されていることを明らかとした。腫瘍細胞増殖抑制ではEPA・DHAによるK-RasおよびN-Ras蛋白質の局在変化について蛍光免疫染色にて解析したが、Ras蛋白質の局在に変化は観察されなかった。 TyrおよびTyrp1の膜局在抑制に関して、TyrおよびTyrp1の膜上へのリクルートに働くRab32/38に着目し、EPA・DHAによるRab32/38蛋白質量および局在の変化について解析したが、変化はみられなかった。次に、蛋白質輸送の足場となる細胞骨格について解析したところ、EPAによるB16F10細胞内のF-actinが減少が観察された。さらに、ヒトメラノーマ細胞株でも同様にEPAによるF-actinの減少が観察された。F-actinは蛋白質輸送の際の足場となる細胞骨格であり、細胞質分裂時に形成される収縮環の主要構成蛋白質である。以上の結果から、EPA・DHAによるメラニン合成抑制作用および腫瘍増殖抑制作用はF-actin減少を介して発揮されていることが示唆された。
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