研究課題に係わる最終年度である平成29年度では,前年度より調査を実施してきた北海道内2地域(K市,I市)において継続的な後継者の人材育成・能力開発に係わる調査を実施するとともに,十勝地域における野菜作経営(M町,O市)および,根釧地域の酪農経営体(K市)を調査事例として設置し,同様に調査を実施した。また,兵庫県S市において新規参入を果たした農業経営体の経営者に対する調査を実施し,新規参入者における能力開発プロセスを把握した。さらに,比較対象として,北海道O市での漁業経営体における人材育成に係わる調査を実施することで,農業経営の人材育成の特徴を明確にした。 具体的な研究成果として,兵庫県S市において新規参入を達成したN農場の経営者の能力開発プロセスについて以下の知見を得た。新規参入者は,参入の前後におけるキャリアデザイン(以下,CD)とそれにもとづく能力開発のための行動によって,効率的な参入を達成することが重要である。参入前のCDを「準備型」,参入後を「適応型」とし,以下に整理する。まず,準備型においては,「農業に対する多様な知識・技術の獲得」「農業経営者像と収益確保を最優先にした農業経営のあり方の理解」「経営に係わる技術の獲得」「起業家精神の醸成」「経営技術の獲得と人間関係ネットワークの構築」といった「基礎的技術,将来構想の構築と起業家精神」に係わる能力形成が展開されていることがわかった。次に,適応型においては,「情報発信の重要性」「経営・作業面に係わる技術の獲得」「責任感と持続的な営農への意欲の醸成」といった「経営・作業技術と責任感,持続的営農に対する意欲」に係わる能力形成が展開されていた。以上のことから,農業外からの新規参入者においては,明確なCDを実施することで,新規参入者自身に必要な能力の形成が達成されていた。 なお,上記研究成果については学会報告済,査読中である。
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