標準小作料制度廃止後における農地の賃借料設定への地域的関与について、全国的な動向および事例の分析を行った。農地の取引においても、市場メカニズムの活用が目指され、2009年の農地法改正により、賃借料の目安である標準小作料が廃止された。しかし、農地は借り手、貸し手の候補が限られるだけでなく、そもそも市場における価格交渉のように、賃借料が形成されているか、という疑問がある。水田地帯においては、標準小作料を求める声も大きく、北海道や山形県では、広く参考賃借料制度として、継続実施されている。 全国的な動向については、①「農地の移動と転用」における統計と、②賃借料の設定に関わる各農業委員会の取り組み、との関係を分析した。事例分析については、秋田県横手盆地の三市町および新潟県新潟市秋葉区の調査、分析を行った。これらにより、参考賃借料制度を明示的に実施していない地域においても、農協または集落の取り組みにより、地代が調整されていることがわかった。標準小作料制度廃止後においても、農協や地域における「参照点」の設定が、現実には大きな意味を持つことになる。ただし、新潟市秋葉区においては、高額で借り集める経営体が確認でき、農地条件を考慮せずに一律で価格を調整することの弊害も確認された。また、秋田県三郷町では、少数の借り手による、価格形成(価格低下)の主導が確認された。この点も、地域で賃借料を調整することの課題といえる。 前年までに行っていた、北海道、新潟県、山形県、石川県での調査結果と合わせ、賃借料の形成要因と、公的機関による関与の実態および課題について明らかにした。
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