本研究の目的は、現在の大型量販店主導の水産物流通システムの中では“雑魚”として扱われてしまっている水産物を積極的に流通させようとする主体に注目し、雑魚流通の取引における垂直的な調整システムの実態と課題をフードシステムの構造変化の影響と関連付けて明らかにすることであった。これまでは、強固なバイイング・パワーをもった大手量販店等によって、サイズや魚種が画一化され、大量・広域流通にそぐう魚種ばかりが強く求められるようになり(濱田,1998等)、大手量販店にとって種類、サイズ、量等の観点から扱いやすい水産物は評価されるが、それらの条件を満たさない水産物は価値の低い魚、すなわち“雑魚”扱いされる水産物がふえてきていた。また、多種多様な水産物を評価、仕分け、配送する流通側の能力が低下しているとも指摘されていた(秋谷,2007)。こうした中、元来、多種多様な水産物が多く水揚げされてきた瀬戸内海地区を中心として、ローカルスーパー、卸売市場、漁協、漁業者グループ、漁村女性起業等の雑魚を積極的に取り扱おうとする主体を中心に取り上げた。 その結果、最近は多種多様な前浜ものの“雑魚”を積極的に取りそろえることで激化する量販店間競争に勝ち抜こうとする動きが顕著となってきており(佐野,2014)、ローカルスーパーが漁業者グループ等と雑魚の取引を開始する例が展開しているが、継続的な事業となっている事例に共通する点は①価格形成システムとしては、建値市場の平均価格をベースとした売り手と買い手の個別交渉に基づく価格発見だが、生産者側に価格決定のイニシアティブがあるということ、②物流費等も量販店側が支出することで、生産者側の費用負担を減らそうとしているが、長期的にみるとスーパー側が今の時点から産地を確保しようとする動き(スーパー主導型の産地取り込み)の第一歩に踏み出している状況であること等が明らかとなった。
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