今年度は、特にアブラナ科を対象として、これまでに実施してきた調査結果を改めて分析・考察することで、研究成果の取りまとめを進めた。具体的には、福岡県久留米市北野町で栽培が継続している山汐菜(やましおな)の栽培・流通・販売の構造と、小学校などでの学習・栽培の取り組みによる地域への効果を検討した。その成果は、2019年8月にアメリカで開催された米国農村社会学会(RSS)で報告し、国際的に見た日本の在来種の立ち位置について海外の研究者らと意見交換をすることができた。 また、2020年2月には、在来種フォーラムを主催し(くまもと在来種研究会)、アブラナ科の作物の世界や日本での栽培特性に関する話題提供が行われ、今後の継承に関わる知見を得ることができた。 次に、国内の種子の法制度の実態(廃止・改正)に関する情報収集を行った。その一環で、2019年5月の小農学会をはじめ、複数の農業セミナーにおいて種苗に関する講演を行う機会を頂き、会場での質疑や意見交換を通じて、一般市民の「種子」による理解の実態を把握することに努めた。また、上述したくまもと在来種フォーラムにおいて、龍谷大学の西川芳昭教授より「人とタネの関係性」に関する講演を頂き、そこでも一般人の種苗に関する法制度の認識についての情報収集を行った。 最後に、在来品種の多様性の評価指標に関しては、食農環境研究会において、南山大学の篭橋一輝氏や岐阜大学の廣田勲氏らと集中的な議論を行った。更に具体的な調査として、岐阜県内での雑穀の保全と食文化の関わりについて、特にエゴマの遺伝資源保全と活用に関する現地調査を行った。これらの成果をベースに、食農文化の多様性評価の在り方の一つとして、生業(なりわい)、保全、価値創出といった観点から、各地域の在来種の栽培・利用状況を分析することが重要であることが仮説的に示された。
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