稲株が等間隔で配置された水田内を流れる田面水の流れ場を再現するため,模型水田実験装置を用いて流れの可視化撮影をおこなった.撮影した画像を基に,PIV(粒子画像流速測定法)を適用して流速分布を求め,抵抗群の間を縫うように流れる平面2次元層流の流れ場の計測に成功した. 稲株周囲の流れ場を再現するための平面2次元流計算モデルには非構造格子を用いた有限体積法を採用し,稲株群を模した計算メッシュを用いて得られた計算結果から稲株の密度や太さ,田面水の平均流速や流れ場,水深による抵抗力の違いについて検討した.この結果から,稲株群による抵抗のモデル化をおこない,構造格子を用いた大メッシュ計算に組み込むことにより,稲株群による流れへの抵抗を考慮した平面2次元流数値計算モデルを開発した. 現地観測では,計5地点の観測対象水田において,田面水の水深や水温の平面分布,各種気象データの連続観測をおこなった.また,一部の期間にはUAVを用いた水田の熱画像の撮影も併せて実施した.さらに,水口・水尻における田面水を定期的に採水して分析し,栄養塩濃度(全窒素,硝酸・亜硝酸態窒素,アンモニア態窒素,全リン,リン酸態リン,全有機体炭素)の経時変化についてのデータを取得した. 田面水の平面2次元流数値計算モデルと,大気-植生-田面水-地中間の鉛直方向熱輸送モデルを組み合わせることにより,水田内の温度環境分布のシミュレーションモデルを完成させ,現地観測結果と比較することで,本モデルの有効性の検証をおこなった.さらに,窒素浄化モデルを組み込むことで,田面水の流れ場および温度環境を統合的に考慮した窒素動態モデルの開発をおこなった.さらに,農業用排水路網を対象とした同様の計算モデルとも組み合わせることで,用水の反復利用の増加や気候変動が下流域の水環境に与える影響について検討した.
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