研究課題/領域番号 |
16K18772
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
尾崎 彰則 九州大学, 熱帯農学研究センター, 助教 (40535944)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 塩分成層 / 水温成層 / 熱塩対流 / 降雨発生装置 |
研究実績の概要 |
H29年度は,水温成層逆転の形成契機となる降雨によって形成される塩分成層状態の定量化を目的とした室内水理実験と,水温成層逆転の形成・発達に関わる気象条件・水環境条件を解明することを目的とした現地水域観測を実施した. まず,室内水理実験については,前年度から実施している「降雨前後の塩分濃度鉛直分布計測」に関わるデータを蓄積し,実験データの解析を行った.この結果,降雨後の塩分成層状態に確認される混合層,塩分濃度遷移層および塩分濃度安定層の3層が,ブルント・バイサラ振動数の鉛直分布により明確に区分できることを明らかにした.また,塩分濃度遷移層のブルント・バイサラ振動数の極値および極値を示す水深の比較により,塩分成層の安定性を議論できることを明らかにした. 一方,現地水域観測については,タイ国カセサート大学クーロンワン水産研究所内の水産養殖池において,現地水産養殖池における気象環境および水環境の連続観測を行った.この観測では,同程度のスケールの3つの水域に対し異なる塩分濃度条件を設定し,2017年6月1日~10月31日(雨季期間)の5か月間の気象変動および水環境変動の連続観測を行った.この結果,水域の鉛直平均塩分濃度が2.6%以上の状態でかつ一定期間まとまった降雨が与えられる条件下において,熱塩対流の影響を受けて水温成層逆転が形成されることが分かった.また,水温成層逆転が発生する場合,塩分濃度成層状態が,水面から低塩分層,中間層,高塩分層の3層に分かれていること,さらに,この3層状態が消滅されるにつれて水温成層逆転が解消されることが分かった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩分を含む閉鎖性水域に起こる水温成層逆転現象のプロセスおよびメカニズムの解明にむけて,本研究で取り組んでいる室内水理実験および現地水域観測の双方で,重要な知見が得られたと評価できる. まず,室内水理実験においては,水温成層逆転の形成プロセスにおいて最も重要となる降雨による塩分成層形成について,塩分濃度および降雨規模と形成される塩分成層状態を定量化することができた.また,水温成層逆転の形成につながる塩分濃度成層の3層状態の出現条件についても整理することができた. 一方,現地水域観測においては,タイにおける雨季期間5か月の連続観測に取り組み,水温成層逆転現象の観測に成功するとともに,その生成から解消までのプロセスを確認することができた.また,この観測の結果から,降雨および塩分条件によって生じる可能性がある塩分成層3層状態の出現期間において水温成層逆転が発生すること,さらにこの3層状態が消滅することにより,水温成層逆転が解消されることが分かった. この降雨後に形成される可能性がある塩分濃度成層の3層状態については,室内水理実験および現地水域観測の双方において確認されている現象であり,今後この3層状態を形成・解消する気象条件および水環境条件について解明することにより,本研究の目的を達成できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様,室内水理実験および現地水域観測を並行して行い,特に水温成層逆転現象の重要な要素となる塩分成層の3層状態の形成・消滅に関わる気象条件および水環境条件の解明を目指す. まず,室内水理実験については,降雨によって形成された塩分成層状態の消滅プロセスについて解明することを目的とした,塩分成層加熱・冷却実験および吹送流発生実験を行い,塩分成層の3層形成に寄与する気象変動成分について実験的に解明する. 一方,現地水域観測については,特に塩分成層状態の挙動について詳細に検討するために計測手法等を改良する.また,塩分成層形成・消滅に関わる降雨,日射量および風速について統合的に解析し,水温成層逆転現象出現条件を特定する. 以上の室内水理実験および現地水域観測によって得られる知見に基づき,水温成層逆転現象に関わる現象について記述・説明する数理モデルを構築することにより,本研究の総括とする.
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