研究課題/領域番号 |
16K18773
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
皆川 明子 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (70603968)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境配慮施設 / 圃場整備事業 / 農業水路 / 魚類 / 土砂 / 堆積抑制 |
研究実績の概要 |
平成28年度には、灌漑期の7月、非灌漑期の3月に、三重県松阪市朝見上地区の農業排水路を対象として、魚類を中心とする生物の生息状況を調査した。その結果、最も整備が早かった工区については3年分のデータを蓄積することができた。2種類の環境配慮施設「魚溜工」と「環境配慮型合流桝」では、魚溜工の方が土砂による埋没傾向が強いことが確認され、一部の施設では深み部分がほとんど埋没し、特に非灌漑期に魚類の生息状況が著しく悪化していることが確認された。また、事業対象地区に隣接する未整備の水路区間についても、物理環境条件および生物の生息状況を把握する調査を行った。 また、魚溜工2地点、環境配慮型合流桝1地点を選定し、およそ月1回の頻度で土砂の堆積高を測定し、年間の堆積量の変化を把握した。イベントと堆積量の関係を解明するため、魚溜工の上流に自動採水器を設置し、採水試料中のSSおよび強熱減量の測定、粒度試験を実施することにより、年間を通じて施設に流入する土砂の供給量を把握した。その結果、代かき・田植え期に流入した土砂のD50粒径は4.9±3.6μmで水田由来と考えられ、降雨時に流入した土砂のD50粒径は56.6±39.7μmと大きく、畦畔由来と推定された。また、SSから強熱減量を差し引いた土粒子量から土砂供給量を算出し、年間堆積量に占めた割合を算出した結果、代かき・田植え期の寄与は18.3%、降雨時の寄与は66.9%となり、降雨時に畦畔から流入する土砂が堆積量に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。よって、生態系配慮の視点からも、畦畔植生に着目する必要があると考えた。 魚溜工について、土砂の堆積を抑制する施設形状を解明するため、施設の1/4スケールの水理模型を作製し、現地調査から推定された洪水時流量を与えた場合の水路内の流速分布を3次元電磁流速計により測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的に示した①~③の3点について、以下に進捗を述べる。 ①施工後最大6年間のモニタリングデータ(生物+土砂)から環境配慮工法の魚類保全効果を評価すること、については、予定通り灌漑期および非灌漑期の調査を調査対象地の全地点において実施することができた。また、魚溜工に対する土砂供給量を推定することができ、順調に進展している。 ②現地での標識再捕獲調査および模型実験により魚溜工と合流桝の退避場としての効果を検証すること、については、計画では平成29年度に着手する予定であったが、予備的な水理模型実験を行うことができたため当初の計画以上に進展している。 ③模型実験および水理シミュレーションに基づくより効果的な環境配慮施設の形状を提示すること、については、当初想定していた2次元の解析では施設形状について十分に評価できないことが分かった。そのため、①の土砂供給量の推定に注力することとし、③では1形状についてのみ模型の作成と洪水時流量を与えた場合の水路内の流速分布の測定を行い、概ね順調な進展となった。
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今後の研究の推進方策 |
生物の生息状況および物理環境についてのモニタリングを引き続き継続し、最大6年分のデータの蓄積を目指す。施設への土砂供給量の把握については、28年度の結果から畦畔植生が重要であることが示唆されたため、29年度以降に施工される工区を対象に畦畔植生の条件を変えた対照実験的な調査が実施できないか地元と検討する。また、植生について評価できる研究者に協力を依頼したい。 魚溜工と合流桝の退避場としての効果の検証については、現地での調査よりも模型実験による評価の方が優先度が高いと判断されたため、十分な供試魚を確保し、適切な時期に模型実験を行って施設形状の違いが退避場としての特性にどのように影響するのかを解明する。また、土砂の堆積抑制および出水時の退避場として効果の高い環境配慮施設の形状を提案するために必要となる水理シミュレーションについては、3次元解析可能なソフトを使えるようにする。具体的には、iRICのNaysCUBEを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
高速道路料金などクレジットカード支払いの項目について、引き落としまで時間差が生じるため、公用車ガソリン代をなどを支払う際に一旦残額がゼロになったタイミングがあり、学内の精算手続きの後に残額が生じていた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の調査を行う際の交通費等として全額使用予定。
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