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本研究では，ストロンチウム（Sr）および水素・酸素安定同位体を用いて，人為的な灌漑水の影響を大きく受ける河川流域での地下水湧出量を定量化した．その結果，1）Sr同位体比から推定した地下水成分の混合比は水収支からの算定値とよく一致すること，2）地下水の水安定同位体比は時間的に変化するため端成分の定義が難しいこと，3）Sr同位体比により，直接的な観測が困難であった地下水湧出量，特にその時間的変化を定量化できる可能性があることを示した．
対象とした五行川（鬼怒川流域）は典型的な水田水利用がみられる扇状地河川で，その河川水は降水，鬼怒川から供給された灌漑用水および湧出した浅層地下水から構成される．灌漑期（2016年6月）に五行川の河川水（約500m間隔で23地点），井戸水（浅層地下水46地点），農業用水，土壌水，降水を採水し，Srおよび水安定同位体比を分析した．また，水田圃場および排水路での採水を同8月に行い，水田に供給された水が流下する過程でのSrおよび水安定同位体比の変化を観察した．
87Sr/86Sr－1/Srおよびδダイアグラムにおける灌漑用水，浅層地下水の平均値をそれぞれ端成分とし，河川水中に含まれる両者の成分を定量化した．その結果，Sr同位体比により推定した浅層地下水の混合率は，水収支から推定した浅層地下水の成分と，流下に伴う上昇傾向や局所的な増減などが整合した．一方，水安定同位体比により推定された混合比は，流下に伴う上昇傾向は上述の推定結果と整合するものの，やや過小であった．これは，観測時に湧出した浅層地下水に，田面での蒸発の影響の小さい水（灌漑用水に近い水）が含まれていたためと考えられる．
以上から，Sr同位体比を用いれば，人為的な灌漑水の影響を大きく受ける流域での直接的な観測が困難であった地下水湧出量，特にその時間的変化に着目した定量化が可能であることを示した．
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