2000-2009年の東北の夏を対象に冷害の発生を予測するシステムを構築した.過去30年(1980-2009)の観測値のみを用いた気候値予報と比較し,気象モデルに基づく単独予報およびアンサンブル予報の特徴を明らかにした.また,解析に用いた品種(まっしぐら,ひとめぼれ,あきたこまち,はえぬき,コシヒカリ)それぞれの予報精度を評価した. いずれの品種の地域においても,気温の予測誤差(RMSE)は1-5日予報で1.6-1.8℃,11-14日予報で2.6-2.9℃で品種による差は顕著ではなかった.冷却量のRMSEはコシヒカリやあきたこまちの1-5日予報で0.8℃,11-14日予報では2.7-2.9℃であった.一方まっしぐらでは1-5日予報で1.4℃,11-14日予報では5.1℃と誤差の増加が顕著であった.まっしぐらで誤差が大きい理由は平均気温が冷却量を算出する基準温度に近いためであった. 続いて,気候値予報,単独予報,アンサンブル予報に対する再現性の差を検討した.観測された気温の変動幅(2.2℃)に対し,いずれの予報も変動の大きさは同程度であった(2.0-2.2℃).そのため,予測値を用いない気候値予報も冷却量が予測できると期待されたが,実際は予報1日目から単独およびアンサンブル予報の精度を上回ることができなかった.これは,気温の日々の変動パターンが合っていないことが原因であった.観測値に対する気温の相関係数は0.11(気候値予報), 0.52(単独予報), 0.49(アンサンブル予報)で,気候値予報は日々の変動をほぼ再現できていなかった.平均を取るためにアンサンブル予報は単独予報よりも相関係数が悪くなったものの,不確実性の大きいモードを相殺するために冷却量の予測においてアンサンブル予報は単独予報よりも優れることも明らかになった.
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