研究課題/領域番号 |
16K18776
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
タンマウォン マナスィカン 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (90763673)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ADH遺伝子発現 / MA包装 |
研究実績の概要 |
低酸素は呼吸を抑えるため青果物の鮮度保持に効果的であり、低酸素環境の創出を基本原理としたMA包装やCA貯蔵などとして実用されている。こうした技術の設計や運用にあたっては青果物の低酸素耐性を評価する必要がある。低酸素耐性は、従来、呼吸商の変動に基づく呼吸商変化点(RQB)やエタノール等の嫌気代謝産物の生成量に基づく発酵閾値(FT)によって評価されてきた。しかし、更なる最適化のためには、貯蔵環境の酸素濃度に応じた呼吸代謝の応答を遺伝子レベルで議論する必要があると考えた。 アルコール脱水素酵素(ADH)遺伝子は、嫌気呼吸代謝の主要酵素である。平成28年度の実験では、低酸素濃度下におけるレタスのADHをコードするLsADH遺伝子の発現量を調査し、低酸素耐性を評価するとともに、従来のRQに基づいて規定される限界酸素濃度と比較した。加えて、平成29年度では、種々の酸素濃度下におけるレタスのLsADH発現レベル、RQ、エタノールとアセトアルデヒドから、低酸素耐性を評価した。LsADH発現レベルは、対象区(20.9% O2)と比較して15%~3.5% O2区では約6倍であったが、2% O2を境に著しく発現増加した。一方、RQは、20.9%~0.3%のO2濃度範囲で1.1前後を推移し、0.3% O2を下回ると急増した。したがって、RQBは0.3%であった。嫌気代謝物であるエタノールとアセトアルデヒドの生成量は、1%より低O2において著しく増大し、FTは1%であった。このことから、LsADH発現レベルが著しく増加する酸素濃度を遺伝子発現転換点(GEB)と定義すると、レタスのGEBは2%であり、RQBやFTと比較すると高酸素濃度側にあり、低酸素条件により敏感に応答していた。このGEBは、青果物の適正貯蔵酸素濃度を決定する上で、有益な指標になると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度において、対象試料として葉菜類(レタス)を用いて、実験用レタスの適切なサンプリング方法(サンプリング箇所)の選定ができた。また、試料に応じたRQ測定とADH遺伝子発現解析用のプライマーの設計や実験実施がスムーズに出来るようにADH遺伝子発現解析手法を確立した。平成29年度において、種々の酸素濃度下におけるレタスのLsADH発現レベル、RQ、エタノールとアセトアルデヒド生成から、低酸素耐性を評価した。また、対象試料としてホウレンソウを用いて、レタスと同様の実験系(RQ測定方法、SoADHのプライマーの設計)を構築し、実験を実施できた。さらに、国内外の学会において、研究成果を発表することができた。このように、計画通りに研究実施するための環境や実験データの取得ができるようになり、研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
測定が容易であることに加え、呼吸代謝関連の酵素、遺伝子に関する研究が進んでいることを条件に、葉菜類、果菜類の中から対象品目を選定し、低酸素耐性を評価するために、ADH遺伝子発現、RQ、エタノールとアセトアルデヒド生成の解析を実施する。また、限界酸素濃度における厳密な調査をするため、GEBから決定した限界酸素濃度およびその前後に酸素濃度が平衡するようにMA包装フイルムを設計し、包装・貯蔵試験を実施して、青果物の品質変化を測定し、最適な限界酸素濃度を決定する。研究成果は、学会および論文誌に投稿する予定である。
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