低酸素は呼吸を抑えるため青果物の鮮度保持に効果的であり、低酸素環境の創出を基本原理としたMA包装やCA貯蔵などとして実用されている。こうした技術の設計や運用にあたっては青果物の低酸素耐性を評価する必要がある。低酸素耐性は、従来、呼吸商(RQ)の変動に基づく呼吸商変化点(RQB)やエタノール等の嫌気代謝産物の生成量に基づく発酵閾値(FT)によって評価されてきた。しかし、更なる最適化のためには、貯蔵環境の酸素濃度に応じた呼吸代謝の応答を遺伝子レベルで議論する必要があると考えた。 アルコール脱水素酵素(ADH)遺伝子は、嫌気呼吸代謝の主要酵素である。平成28年度の実験では、低酸素濃度下におけるレタスのADHをコードするLsADH 遺伝子の発現レベルを調査し、低酸素耐性を評価するとともに、従来のRQに基づいて規定される限界酸素濃度と比較した。加えて、平成29年度では、種々の酸素濃度下におけるレタスのLsADH発現レベル、RQ、エタノールとアセトアルデヒドから、低酸素耐性を評価した。 平成30年度は、新たにホウレンソウを用いて、RQBが0.3%であることを明らかにした。SoADH発現レベルは、対照区(20.9% O2)と比較して3.0% O2区では約2倍であったが、1.5%O2を境に著しく発現上昇した。さらに、ホウレンソウを用いて、10℃と25℃貯蔵中の包装有/無条件下におけるSoADHを測定した。25℃貯蔵区は、SoADHの発現レベルが低下したが、包装の有無によるSoADH発現レベルの差が見られなかった。一方、10℃貯蔵区は、SoADH発現レベルの上昇傾向が見られた。包装の有無によるSoADH発現レベルは、貯蔵4日後のみ差が見られた。このことから、ホウレンソウのADH発現変化は、包装の有無による影響だけでなく、貯蔵温度の影響も受けることから、温度の影響についても検討が必要である。
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