研究課題/領域番号 |
16K18778
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
辰己 賢一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40505781)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 収量モデル / イネ / モデルパラメータ / 不確実性 |
研究実績の概要 |
本研究では,1. 進化型多目的最適化手法によるモデルパラメータの最適解群の導出,2. 作物収量予測にとって重要なターゲットパラメータの精緻化と逐次バイアス補正手法の開発により,高い汎化能力を持つ作物成長モデルの開発を目的としている.平成28年度は,多目的個体群進化をベースとするモデルパラメータ最適化アルゴリズムを作物成長モデルに実装し,計4種の誤差評価関数をそれぞれ目的関数として,これらを同時に満足させるパラメータ最適解群を求めることが可能な機能をモデル内部に実装した.トレードオフの関係にある複数の誤差評価関数を用意することにより,それらを同時に最小化する多目的最適化問題を設定することが可能となった.一方,東京農工大学試験ほ場に気象観測ステーションを設置し,気温・相対湿度・光量子・日射・雨量計の連続観測を開始した.また,作物の成長調査として,東京農工大学試験ほ場で栽培したヒノヒカリの器官別の地上部乾物重,水質(計16種)の時系列計測を実施した.以上の結果を用い,構築したモデルを東京農工大学ほ場を対象に適用した結果,デフォルト(初期)パラメータを採用した際に得られた収量の再現精度と比較して,多目的最適化手法によりモデル内主要パラメータを最適化した場合,収量の再現精度が約20%向上した.計算コストを抑えながら,解の収束効率を改善させたり,各目的関数の重み付けが成長と環境の関係に与える影響については現在検証中である.これらの研究により,ほ場内におけるイネ成長量の空間的ばらつきを定量的に確認できたことから,モデリングにおいては,パラメータの不確実性を十分に考慮する必要があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度には,野外ほ場での気象観測およびイネの成長量計測を順調に実施することができた.また,これらのデータは時系列で取得できたため,今後の収量予測モデルの更なる精緻化に寄与できるものと考える.一方,多目的個体群進化をベースとするパラメータ最適化技術をほ場の特異性に応用するためには,モデル基礎式のコンパートメント化とパラメータ縮約が必要であり,これらに関しては一部遅れが生じた.平成28年度に得られた成果の一部は国内学会において口頭発表を実施し,また国際英文学術誌へ数編の論文を投稿した.これらを総合的に自己点検評価し,現在までの進捗状況をおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
計画どおり,ほ場の特異性を評価することが可能な作物成長モデルの開発を進める.加えて,コムギ・イネの光合成特性の測定を実施する予定としている.また,群落の光環境測定を実施することにより,個体および群落における同化量をモデルに組み込むことで,ほ場での成長のバラツキに関する情報を考慮することが可能なモデリングの実施を行う予定である.得られた計測データを十分に活かした研究成果の内外への発信を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定していた作物体窒素濃度の計測作業を行わず,予定していた人件費・謝金の使用額が当初計画を下回ったため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に作物体の全窒素・全炭素濃度の測定を実施する.加えて,イネの生育調査を詳細に実施する予定であることから,これらの計測に必要な人件費・謝金として使用する計画である.
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