研究課題
イヌ科,ネコ科,クマ科の複数種において,動物園飼育個体から排泄物を定期的に継続して採取し,発情や排卵,黄体活動や妊娠・偽妊娠の状況を把握した。イヌ科動物において,特に成果が得られたので概説する。イヌ科動物では,プロジェステロン(P4)動態と行動が妊娠期と同様に変化する偽妊娠現象が確認されている。野生下でパックと呼ばれる社会を形成し,雌が他個体の産子に対して哺育や授乳を行うことが報告されている。本研究では,雌のリカオン3頭とシンリンオオカミ4頭を対象として内分泌モニタリングを行い,繁殖生理状態を明らかにし,偽妊娠現象に着目した考察を行なった。黄体ホルモン動態の指標としてP4,プレグナンジオール-グルクロニド(PdG)および20α-ヒドロキシプロジェステロン(20α-OHP)を酵素免疫測定法により定量した。各動物種で3種類のホルモン動態は同様の変動パターンであった。妊娠期の糞中P4,PdGおよび20α-OHP含量は,交尾日前後で上昇を開始し,出産日に高値を示し,その後顕著に低下した。リカオン3頭の糞中P4含量は,その上昇が20日の範囲内で同調して起こっていた。同様に,シンリンオオカミ4頭中3頭では,16.3±2.0日の範囲内で上昇した。偽妊娠動物では,P4上昇に伴い泌乳や育子行動の発現が促進されると考えられている。以上のことから,パック内の出産個体に,他個体の生理状態が同調している可能性が考えられた。オオカミでは3頭で発情出血(平均34.6±4.7日間)が確認でき,出血状況をスコア化してホルモン動態との関連を分析した。犬の発情出血は発情前期に発現することから繁殖期の開始を示す一つの指標となると考えられており,オオカミでも概ね同様であったが,P4上昇開始期より後に発情出血が確認された例もあった。
2: おおむね順調に進展している
イヌ科,ネコ科,クマ科の複数種において,それぞれ繁殖生理の調査が進行し,特にイヌ科のリカオンとシンリンオオカミでは,偽妊娠現象に関わる可能性のある内分泌状態を明らかにすることができた。
当初の計画通り,各動物種に汎用性のある妊娠指標物質の定量法を排泄物を使って確立していく。また,妊娠期と偽妊娠期の繁殖行動および育子行動の定量解析を進める。得られた成果を順次,学会等において発表していく。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
J Vet Med Sci
巻: 79 ページ: 92-99
10.1292/jvms.15-0683
http://www1.gifu-u.ac.jp/~lar/