ブタは、胎盤を介した母体から胎子への抗体の移行が行われないため、分娩後の子豚にとって質の良い初乳を十分量摂取することはその後の生存性および発育性に大きく影響する。しかし、何らかの理由で子豚が本来必要とする栄養ならびに抗体が含まれる乳を十分得られない場合、このような子豚を健康に育成することができる画期的な代替法はない。 我々はこれまでに、ブタの妊娠認識機構を利用し、持続性エストロジェン製剤(EDP)の単回投与のより、ブタに妊娠様状態(偽妊娠状態)にさせることが可能であることを明らかにした。しかし、この偽妊娠豚に黄体退行処置(模擬分娩誘起)を施しても乳腺発達ならびに泌乳は認められない。そこで本研究では、この偽妊娠豚を用いた泌乳誘起方法の可能性を検討し、簡便かつ安定的に代用乳を得る技術を開発するための基礎的知見を充実されることを目的とした。その結果、61.5%の供試豚で泌乳が認められた。黄体退行処置前の追加EDP投与量は泌乳誘起効率に影響を及ぼさないものの、追加EDP投与から黄体退行処置までの日数が5日に比べて10日で泌乳誘起効率が高くなる傾向が認められた。偽妊娠豚から得られた乳中免疫グロブリン濃度は黄体退行処置後24時間目に最高値を示し、その値は自然分娩豚から得られた初乳中濃度に比べて有意に高値を示した。以上のことから、非妊娠豚に人為的に泌乳を誘起することが可能であることが明らかとなった。さらに、非妊娠豚から得られた乳中には高濃度の免疫グロブリンが含まれることが判明した。
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