給与飼料の切り替え時に起こるルーメン環境の不安定化を防ぎ、代謝性疾病を予防するためには、ルーメン内の環境、細菌叢を健全で安定化させる要件の解明が重要である。本研究では、植生が多様な野草地放牧のルミノロジー的意義を解明するために、牛の摂食植物-ルーメン細菌叢-消化機能の関係を調査した。野草地での放牧試験は年による差が大きく出やすいため、同一条件で先述の関係を検討するために、28年度はサンプリングとin vitro培養を中心に実施した。 調査は東北大学川渡フィールド科学センターにおいて黒毛和種繁殖牛6頭を供試して行った。5月より林地・野草地混在草地(以下野草地)において放牧を開始し、7月に3頭を牧草地に移牧して10月末まで放牧を行った。残りの3頭は10月末まで野草地で放牧を継続した。6月と10月(各草地3頭)に植生および牛の摂食植物種を調査し、牛の摂食草、ルーメン液、尿を採取した。培養試験は、採取したルーメン液の一部と、5月に採取、調製したウリハダカエデおよびオーチャドグラスを用いて実施した。 植生が多様な野草地において摂食植物種数および繊維成分含量は高かったが、ルーメン内の機能および生産性を示す分解率および揮発性脂肪酸濃度は、牧草地と同様か低い値を示した。一方、ウシの摂食草中総フェノール含量は6月の野草地で高く、これはフェノール含量が高い木本類が野草地で多く採食されたことが反映されたと考えられたが、この時のルーメン内微生物態蛋白質合成量は、10月の野草地および牧草地より低い値を示した。フェノール性成分はルーメン細菌叢の多様性に影響を及ぼすことが報告されていることから、ルーメン内細菌叢が大きく変化し、合成量にも影響を及ぼした可能性がある。現在、細菌叢解析まで終了したところであり、細菌叢解析結果と先の結果を用いた共起ネットワーク解析によりこれらの関係性を詳細に検討する必要がある。
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