研究課題
日本国内各地ならびにザンビア、ミャンマー、フィジー、アメリカ、モンゴルでマダニを採集し、ダニ媒介性フレボウイルス遺伝子をRT-PCR法 (Matsuno et al. 2014 J Virol) にて検出した。その結果、日本のマダニおよびザンビア、フィジー、アメリカで採集したマダニから多種多様なフレボウイルス遺伝子が検出された。それぞれのウイルスについて、PCR産物の塩基配列を元に系統解析をしたところ、最低でも10種の新規フレボウイルス候補であることが分かった。Vero細胞、Huh-7細胞などの哺乳動物由来細胞と、マダニ由来のISE6細胞を用いてこれらのウイルスの分離を試みたところ、Mukawaウイルス・Kuriyamaウイルスの2種のフレボウイルスが分離された。これらのウイルスは互いに近縁で、系統樹上では他のフレボウイルスから独立した単一のクラスターを形成する。また、このウイルスはダニ媒介性フレボウイルスとは系統的に離れた位置におり、蚊やスナバエといった吸血昆虫によって媒介されるウイルスと比較的近縁であることが分かった。一方で、ウイルス間のアミノ酸配列を比較すると、Mukawaウイルス・Kuriyamaウイルスは、ダニ媒介性ウイルスに近い特徴を有していることが分かった。特に、非構造タンパク質NSsについては、リフトバレー熱ウイルスなど蚊媒介性ウイルスのNSsとは異なり、ダニ媒介性ウイルスのNSsと機能的に相似である可能性が示唆された。また、蚊媒介性ウイルスはもう一つの非構造タンパク質NSmを持つが、Mukawaウイルスは持たないことが分かった。SFTSウイルスの病原性の分子基盤を明らかにするため、免疫不全マウスにウイルスを感染させ、死亡時におけるウイルス抗原陽性細胞を病理学的に探索した。その結果、マクロファージが主にウイルスに感染していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
日本国内外におけるマダニのフレボウイルス遺伝子スクリーニングは当初計画通りに順調に進展しており、特に日本に生息する多種多様なマダニについて、ウイルスとマダニ種の対応を示唆するのに十分な個体数のスクリーニングを行なうことができた。また、ウイルス分離についても、マダニ由来の細胞を用いたことで新たに1種のウイルスを分離することに成功した。分離されなかったウイルスについても、RNA-seqにより、遺伝子全長配列を決定している。これらのことから、新規フレボウイルスの積極的探索については、おおむね順調に進展していると自己評価する。また、遺伝子系統解析による病原性決定因子の探索としては、新規に発見されたウイルスを加えてフレボウイルス間で遺伝子配列の比較を行い、非構造タンパク質(NSmおよびNSs)が病原性の基盤として必要な因子である可能性が高いことを見出した。特に、NSmはvector competencyを決定する因子として、NSsは哺乳動物細胞への馴化を左右する因子として重要であると考えられる。以上より、この項目についても、おおむね順調に進展していると自己評価できる。
【新規フレボウイルスの積極的探索】平成28年度とは異なる地域で新規フレボウイルスの探索を行う。特に西日本については、SFTSウイルスとの排他的関係が示唆されることから、積極的に調査を行う。【遺伝子系統解析による病原性決定因子の探索】NSmおよびNSsについて、それぞれの病原性ウイルス(リフトバレー熱ウイルスおよびSFTSウイルス)が、いつ、どこで、病原性を獲得したかを推定する。また、SFTSウイルスのNSsタンパク質と相互作用する宿主因子について、詳細を明らかにする。【ウイルスタンパク質機能比較解析による病原性決定因子の探索】特にNSsについて、ウイルス種間のアミノ酸配列を比較し、キメラ体や変異体を作成することにより、SFTSウイルスのNSsがどのように病原性に寄与しているか(=病原性の分子基盤)を解明する。
平成28年度に予定していた参照ウイルス株の輸入許可に時間がかかってしまったため。
参照ウイルス株の送料として用いる。
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