研究課題
平成28年度と同じ調査地域に加え、新たな地域でマダニを採集し、フレボウイルスの積極的探索を行った。その結果、さらに複数種の新規フレボウイルス遺伝子をマダニから検出した。また、前年度までに発見されたMukawaウイルスおよびKuriyamaウイルスについて、宿主であると考えられるシュルツェマダニを重点的に採集し、ウイルス遺伝子を探索した。その結果、これらのウイルスが北海道の一部地域のシュルツェマダニに限局して分布している可能性を示す結果を得た。これまでに検出された新規フレボウイルスのうち、培養細胞での分離ができなかったウイルスについては、ウイルスRNAを含むマダニtotal RNAをシークエンスし、ウイルスの全長遺伝子配列を得た。これらのウイルス遺伝子配列を既存のフレボウイルスと比較したところ、一部のフレボウイルスは非構造タンパク質であるNSsのORFを欠くことが明らかとなった。また、これらのNSs欠損フレボウイルスはM分節RNAも欠いていることを示唆する結果が得られ、NSs遺伝子およびM分節(膜タンパク質をコードしている)がダニ媒介性フレボウイルスの病原性規定因子である可能性が考えられた。そこで、NSsについて、さまざまなダニ媒介性フレボウイルス間で機能を比較したところ、ヒトに病気を起こすことが報告されているウイルスではNSsの抗自然免疫作用、特にインターフェロン産生抑制作用が強いということが明らかとなった。しかし、インターフェロン産生抑制と、SFTSウイルスNSsとインターフェロン産生シグナル因子であるTBK1との結合は、さまざまな動物種由来のTBK1でも見られたことから、NSsだけでは動物種間の病原性の違いについては説明できないことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではこれまでにダニ媒介性フレボウイルスについて、さらに幅広く探索を行い、複数の新規ウイルスを検出した。これらのウイルスの遺伝子全長配列の解明は、ダニ媒介性フレボウイルスの病原性規定因子を推定する上で重要な情報となった。したがって、本研究におけるダニ媒介性フレボウイルス探索は順調に進展しており、今後、さらに新規ウイルスが発見されることでより詳細な解析が可能となると考えられる。したがって、ウイルス探索については概ね順調に進展していると言える。病原性規定因子の系統解析による推定については、マダニ中のNSs欠損ウイルスの発見により大きく進展した。NSs遺伝子欠損ウイルスはこれまでのところ、マダニ中からのみ遺伝子が検出されているのみで、哺乳動物から検出されたことはない。また、膜タンパク質遺伝子も欠損しているこれらのウイルスは感染性のウイルス粒子を産生することができないとも考えられるため、哺乳動物に感染する機会がないウイルスのみがNSsを欠損しているとも言える。以上のことから、病原性規定因子候補である非構造タンパク質NSsについて、さらに詳細な比較解析を行った。その結果、インターフェロン産生抑制能にウイルス間で違いがあることが明らかとなった。NSsのインターフェロン産生抑制能とウイルスの各種動物における病原性を比較するために、様々な動物のTBK1をクローニングし、SFTSウイルスのNSsとの結合やシグナル抑制を調べたところ、いずれの動物のインターフェロン産生系もNSsのターゲットとなっていることが明らかとなった。以上の結果から、病原性規定因子探索についても、順調に進展していると言える。
引き続き新規ダニ媒介性フレボウイルスの探索を行う。調査地域としてシエラレオネ、ニューカレドニア、ボリビア等を予定している。これらは、これまでにダニ媒介性ウイルスの調査がほとんど行われていない地域であり、新規発見が期待される。一部遺伝子を欠損したフレボウイルスについては、病原性を持たないウイルス(遺伝子)であると考えられる。これらのウイルスについては、遺伝子系統解析により、フレボウイルスが遺伝子を欠損したものか、あるいは遺伝子欠損ウイルスが外来遺伝子を獲得して感染性を獲得したものかを明らかにする。同時に、SFTSウイルスのNSsに着目して、病原性の分子基盤解明に向けた研究を推進する。具体的には、リバースジェネティクス系の樹立あるいはタンパク質強制発現系を用いて、NSs変異体の挙動と宿主応答への影響を調べる。また、テキサス大学より導入したリフトバレー熱ウイルうのリバースジェネティクス系を生かし、SFTSウイルスとの違いについて解析する。最終的には、マウスモデルを用いた比較により病原性決定因子を確定する。
病原性試験にて使用予定だったマウスの導入が検疫により遅れたため。
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