研究課題
フタトゲチマダニ雌ダニ(岡山株;単為生殖系)にバベシアBabesia ovata(三宅株)感染ウシ赤血球を吸血させた。吸血を終えて飽血落下した雌ダニをサンプル瓶に回収し、インキュベーター内で飼育し、飽血後2~4日目に解剖し、脂肪体(FB)、卵巣(OV)、その他臓器を含む残骸(CA)に分けて回収した。FBより抽出したトータルRNAよりcDNAを合成し、現在、リアルタイムPCRにてTOR 経路関連分子の遺伝子発現解析を実施中である。OVについては核酸抽出の他、組織切片の作製を行い、OVにおけるB. ovataの検出を遺伝子および組織レベルで試みている。また、CAより抽出したDNAを鋳型とし、B. ovata β-チューブリン特異的プライマーを用いたnested PCR を実施した結果、飽血後2および4日目ともに標的遺伝子の増幅が認められた。さらに、一部の飽血雌ダニについては産卵のために継続飼育し、産下卵を経日的に回収した。原虫感染マダニは非感染マダニと同様に産卵を行い、本年度の実験においては、原虫感染はマダニの産卵効率には影響しないことが明らかになった。経日的に回収した各卵由来のトータルDNAをテンプレートとして、B. ovata β-チューブリン特異的プライマーを用いたnested PCR を実施した結果、産卵開始後1~3日目の卵において標的遺伝子の増幅が認められた。このことから、本実験系によりB.ovata感染牛血液をマダニに吸血させることにより、原虫が卵巣内の卵母細胞に侵入し、卵母細胞が成熟卵に発達してもなお細胞内に留まる可能性が示唆された。したがって、卵巣における原虫感染のピークを解析するタイミングを飽血以降~産卵開始後3日目とすることにし、今後はそのタイミングに焦点を当て、脂肪体におけるTOR 経路関連分子の発現動態を解析し結果を蓄積していく。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、バベシア原虫感染飽血マダニの作出とTOR 経路関連分子の発現動態解析・原虫検出のためのサンプリングを重点的に行った。これまで、フタトゲチマダニ雌ダニにおいて、飽血後0~4日目までのBabesia ovataの体内動態についての解析は行われているが、それ以降の時期における体内動態については不明な点が多い。また、マダニは約3週間という長い産卵期を有する生物であるが、フタトゲチマダニ卵における原虫検出時期や感染率については明らかにされていない。これらの現象を解明することは、マダニにおけるバベシア原虫の介卵伝播機構を分子・細胞レベルで理解するために必要不可欠であり、今年度はそれらの解析に供するサンプルを十分数確保することができた。来年度以降の研究推進に繋がる重要な成果であり、おおむね順調に進展したと評価する。
今後は、今年度得られた研究成果を基に以下の内容について実施し、加えて、平成29年度の計画に沿った研究を遂行する。1.Babesia ovata感染フタトゲチマダニの飽血以降~産卵開始後3日目において、卵巣における原虫検出ならびに脂肪体におけるTOR 経路関連分子(Akt、TOR、S6K、GATA、Vg)の遺伝子発現解析とリン酸化タンパク質の検出を行う。2.未吸血状態で飼育し飢餓状態にしたタイレリア原虫感染マダニについて、唾液腺中の原虫検出とオートファジー遺伝子発現および形態学的解析を実施する。
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Veterinary Parasitology
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