Salmonella Typhimurium(ST)ファージ型104(DT104)は疫学的な観点から高病原性と考えられている。DT104は百日咳毒素に相同性を示すADP-リボシル化毒素ArtABを産生する。また、DT104以外の一部のSTや、他血清型および他菌種においてもartAB遺伝子保有株が存在する。ArtABはマウスへの腹腔内投与により致死活性を示すが、本毒素のサルモネラ症における役割は不明である。本課題ではArtABの発現機構を解析することで、サルモネラの病原性と本毒素の関連を明らかにする。 昨年度までに、artAB遺伝子がサルモネラのプロファージ(Artプロファージ)上に存在すること、Artファージの多様性および伝達性、artA遺伝子発現条件について明らかにしてきた。平成30年度は、artA遺伝子の発現に関与する領域を解析した。Artファージの全塩基配列解析の結果、Artファージには複数の種類が存在することが明らかとなったが、全てのArtファージがλファージ様の構造をとっており、artAB遺伝子は後期アンチターミネーターQ遺伝子の下流に存在していた。DT104のartA遺伝子の転写開始点を5’RACE法により解析した結果、アンチターミネーターQ遺伝子の下流に転写開始点が同定された。さらに転写開始点の下流、artA遺伝子の上流にターミネーターと考えられる配列が認められた。これらの構造は志賀毒素転換ファージ上の志賀毒素遺伝子周辺の構造と類似しており、志賀毒素遺伝子発現機構と同様に、後期アンチターミネーターQ遺伝子発現後、後期プロモーターからの転写がターミネーターをリードスルーし、artA遺伝子が発現する可能性が示唆された。
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