研究実績の概要 |
平成29年度の本研究課題における実施状況は以下の通り: 【概要】牛の黄体形成において、VEGF (血管内皮増殖因子)、BNIP3 (BCL2/adenovirus E1B 19 kDa protein-interacting protein3) に次ぐ重要な因子を特定するために、発情周期各期の黄体組織および初代培養黄体細胞を用いた検討を継続して実施した。特にトランスフォーミング増殖因子Ⅲ型受容体(endoglin, betaglycan)のウシ黄体形成における役割について解析を実施し、その成果を公表した。 【方法】発情周期各期の牛黄体組織の endoglin, betaglycan mRNA 発現について定量的 RT-PCR により調べた。牛の初期・中期黄体細胞を単離培養し、低酸素環境 (3% O2) の endoglin, betaglycan mRNA 発現に及ぼす影響について定量的 RT-PCR により調べた。 【結果】betaglycan mRNA 発現は形成期-後期に高く、退行期に低い傾向を示した。endoglin mRNA 発現は形成期-中期に高く、退行期と比較して有意な差が認められた。初期細胞において、hCG は通常気相で betaglycan mRNA 発現を増加させ、低酸素環境はその作用を有意に増強した。endoglin mRNA 発現に及ぼす低酸素環境の影響は認められなかった。 【結論】ウシ黄体初期における低酸素環境は、LH とともに betaglycan 発現を促進することによって黄体形成に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
効率よく牛黄体形成に関与する新しい因子 (endoglin, betaglycan) を見出すことができたため、上記区分とした。具体的には次のとおりである: 当初計画では、PCR array を用いた新しい因子の抽出を実施予定であったが、その実施前の予備検討として考えられる遺伝子の検討を実施した。低酸素環境が HIF1 を介して発現誘導する遺伝子は、血管新生、赤血球増産、解糖系、アポトーシス、オートファジーなど多岐にわたるが、その中で血管新生に関わる endoglin, betaglycan の牛初期黄体における機能が知られていなかった。まずこの点について検討を実施したところ、予想に反して、形成期や中期の黄体における発現の亢進を見出した。さらに解析を進めるため、初代培養細胞を用いて検討したところ、低酸素環境に反応して betaglycan mRNA 発現の上昇することも確認できた。以上の成果を認めたことから、進捗状況を上記区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初より計画していたオートファジーに関連した蛋白質 (BNIP3)、血管新生に関連した蛋白質 (VEGF) に加え、平成 28-29 年度に新たに見出した GLUT1, endoglin, betaglycan についてノックアウト法を確立し、予定通り黄体細胞の生存性、アポトーシス、P4 合成の評価に適用する。具体的には次のとおりである: 初期と中期の黄体細胞を単離・培養し、BNIP3, VEGF, GLUT1 endoglin, betaglycan を CRISPR/Cas9 を用いてノックアウトし、細胞の生存性 (WST-1 assay, Trypan blue 染色、乳酸脱水素酵素法)、アポトーシス (TUNEL染色, アポトーシス実行因子 caspase-3 活性の測定, アポトーシス関連因子の mRNA・タンパク質発現解析 [定量的 PCR, Western blot])、P4 合成 (EIA, ステロイド合成系の mRNA・タンパク質発現解析 [定量的 PCR, Western blot]) について評価する。この解析により、BNIP3, VEGF, GLUT1 endoglin, betaglycan の初期と中期での黄体細胞における重要性の違いが判明する。
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