研究実績の概要 |
平成 30 年度の本研究課題における実施状況は以下の通り: 【概要】牛の黄体形成において、VEGF (血管内皮増殖因子)、BNIP3 (BCL2/adenovirus E1B 19 kDa protein-interacting protein3) に次ぐ重要な因子を特定するための検討を継続して実施した。特に、平成28年度に黄体形成における関与を見出した糖輸送担体 glucose transporter-1 (GLUT1) およびこれにより輸送される glucose の黄体機能における役割について検討した。 【方法】牛の中期黄体細胞を glucose 添加あるいは無添加培地において一定時間培養し、細胞生存率を調べるとともにアポトーシスに関連するタンパク質 (FAS, CASP8, BCL2, BAX, CASP3) の mRNA 発現について定量的 RT-PCR により調べた。glucose 添加培地の牛中期黄体細胞に GLUT1 阻害剤を添加して一定時間培養した後、細胞生存率を調べた。 【結果】glucose を除去あるいは GLUT1 を阻害することで、glucose を添加した無処理区と比較して細胞生存率が有意に低下した。glucose の除去により CASP3 および FAS の mRNA 発現量が増加し、さらに glucose (25 mM) を追加することで glucose を含む培地の細胞における発現量と差のない発現量となった。 【結論】GLUT1 がウシ初期黄体において機能する一方で、GLUT1 を介して黄体細胞に供給される glucose が低下することで黄体細胞のアポトーシスすなわち黄体の構造的退行が誘導されることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当初より計画していたオートファジーに関連した蛋白質 (BNIP3)、血管新生に関連した蛋白質 (VEGF) に加え、平成 28-30 年度に新たに見出した GLUT1, endoglin, betaglycan についてノックアウト法を確立し、予定通り黄体細胞の生存性、アポトーシス、P4 合成の評価に適用する。具体的には次のとおりである: 初期と中期の黄体細胞を単離・培養し、BNIP3, VEGF, GLUT1 endoglin, betaglycan を CRISPR/Cas9 を用いてノックアウトし、細胞の生存性 (WST-1 assay, Trypan blue 染色、乳酸脱水素酵素法)、アポトーシス (TUNEL染色, アポトーシス実行因子 caspase-3 活性の測定, アポトーシス関連因子の mRNA・タンパク質発現解析 [定量的 PCR, Western blot])、P4 合成 (EIA, ステロイド合成系の mRNA・タンパク質発現解析 [定量的 PCR, Western blot]) について評価する。この解析により、BNIP3, VEGF, GLUT1 endoglin, betaglycan の初期と中期での黄体細胞における重要性の違いが判明する。
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