本年度においては、国内の犬の尿路感染症における実態把握を目的に、動物病院に調査協力を依頼し、本症罹患犬に関する疫学調査を実施した。調査協力を依頼した病院のうち、合計23の動物病院から合計125症例の尿検体を送付していただいた。そのうち99症例が感染とみなされる菌量で細菌が検出されたことから、これらの症例を尿路感染症罹患症例とした。症例の年齢については、8歳以上の中高齢の症例が75症例と全体の約8割を占める結果となった。症例の犬種については、ミニチュア・ダックスフンドが全体の約4分の1を占め、次いで雑種、レトリバー系、チワワ、柴と続いた。全99症例中27症例(27.3%)が尿路における何らかの併発疾患を有しており最も多いのが尿石症であった(18症例)。一方で、全99症例中14症例(14.1%)では易感染性を促す全身性要因が確認された。そのうちでもっとも多いのがクッシング症候群であり、その他の内分泌疾患(糖尿病及び甲状腺機能低下症)と合わせると、内分泌疾患は易感染性要因の約8割を占めていた。尿路感染症罹患症例99個体のうち、単独の菌が分離された個体は87症例(87.9%)、複数菌種(2~3菌種)が分離された個体は12症例(12.1%)であり、過去の報告と同様に、尿路感染症の多くは単独の菌の感染に起因していることが確認された。また、症例に対して使用されていた主要な抗菌剤としてはST合剤、クラブラン酸加アモキシシリン、オルビフロキサシンが挙げられ、これら3薬剤が半数近くを占める結果となった。
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