研究課題/領域番号 |
16K18813
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
万谷 洋平 神戸大学, 農学研究科, 特命助教 (30724984)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小腸 / 間質細胞 / 免疫組織化学 / 三次元超微形態学的解析 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の通り前年度学術集会で公表した内容の一部を投稿論文にて公表するとともに,学会公表を行なった。 ①小腸のPaneth細胞による常在細菌に対する生体防御応答の誘導機構に関して,粘膜固有層内の細胞群の関与を超微形態学的に精査した。その結果,一部のPaneth細胞が基底側に細胞突起を伸長すること,telocyteに相当する間質細胞がこの細胞突起と接触することでPaneth細胞の活動に影響を及ぼす可能性を明らかにした。またこの細胞がCD34+CD31-PDGFRα-αSMA-のphenotypeを示す細胞群である可能性を明らかにした(Mantani et al., 2018)。 ②回腸パイエル板の濾胞被蓋上皮に存在する特殊な上皮細胞-M細胞の分化機構について調べた結果,従来M細胞の分化に必須であるとされてきたRANK-RANKLシグナルがM細胞の分化に必要な上皮細胞のアポトーシスの抑制に貢献している可能性を明らかにした(Yuasa et al., 2018). ③ラットの回腸腸陰窩周囲に存在する間質細胞群をSerial Block face-SEM(SBF-SEM)を用いて三次元超微形態学的に分類するとともに,このSBF-SEMによる解析は結合組織内における複雑な細胞集団の中で形成される細胞間ネットワークの解析に非常に有用であることも明らかにした。(第160回日本獣医学会学術集会,第93回日本解剖学会近畿支部学術集会にて学会公表) ④これまで小腸を実験モデルとして実施してきた研究を大腸にも展開し,大腸各部位(盲腸,上行結腸,下行結腸,直腸)における上皮下間質細胞を免疫組織化学的に解析した。その結果,小腸,大腸各部位でLP内に存在する間質細胞の種類や局在には部位差が存在することを明らかにした(第93回日本解剖学会近畿支部学術集会にて学会公表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はラットの回腸におけるSBF-SEMによる三次元超微形態学的解析を実施した。その結果,このSBF-SEMによる解析は間質細胞のような形態の複雑な細胞種の分類に非常に有用であること,加えて1つ1つの細胞が形成する細胞間ネットワークの全容の解析に有用であることを見出した。このため,研究開始当初はtelocyteに焦点を絞った研究を展開することを予定していたが,telocyteを含めた間質細胞群全てを研究対象にすることに変更した。これに伴い,三次元解析の対象箇所も腸陰窩周囲を当初予定していたが,解析範囲を拡張し,本年度は回腸粘膜全体の断層撮影を実施することができた。三次元再構成による解析は現在進行中であるが,得られた成果は研究計画当初想定していた以上であり,来年度の論文公表を予定している。 加えて,昨年度より実施してきた細胞マーカーによる間質細胞の分類については,ラットの回腸の上皮下間質細胞を実験モデルに3種類のphenotypeに分類されることを明らかにでき,学術誌に投稿済みである(Mantani et al., 2018, Anat. Rec.)。これに加えて,SBF-SEMによる解析の情報を元にtelocyteを含む上皮下間質細胞に限らず他の間質細胞群の細胞マーカーによる同定方法についても解析を進めている。これらの成果をもとに,研究計画当初解析を予定していた小腸粘膜だけでなく,解析対象を腸管全長に変更し,腸管各部位に局在する「間質細胞の部位差」という観点からも間質細胞の細胞集団の実態解明を行なうことができた。この成果についても現在投稿論文を執筆中である。なお,細胞単離などを用いた新たな細胞マーカーの開発については次年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までで一通り三次元解析に用いる断層撮影像を取得することができた。このため,今後は得られた断層撮影像から三次元再構成を引き続き行ない,学術集会,学術雑誌にて順次公表していく予定である。加えて,従来採用されてきた透過型電子顕微鏡による解析に比べて,本研究で実施している三次元超微形態学的解析を用いることによってより精度の高い細胞分類を行なうことができている。これにより見出されたラット小腸粘膜内の各種間質細胞について、細胞マーカーの同定を追加で進めることができているため,次年度は細胞マーカーによる細胞の分類も引き続きより精度を上げて実施していく予定である。 また,一部の間質細胞の細胞マーカーについてはすでに同定することができたため,中でも特に細胞間ネットワークの形成に重要な細胞種をセルソーターにより単離し,新たな細胞マーカーの開発や各間質細胞の機能的な特徴の解明に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度投稿して受理された投稿論文の投稿料(含別刷り料)の請求が次年度に計上される予定であるため,当初配分していた投稿料分の予算を次年度使用額として計上した。加えて,本年度までに実施してきたSBF-SEMを用いた三次元超微形態学的解析から,研究計画当初想定していた以上に得られる情報量が多く,telocyteに限らず他の間質細胞群も含めて研究対象とした方が,より学術的価値の高い研究成果をあげることが可能であると判断した。このため,研究計画当初の予定では,小腸粘膜内の特に腸陰窩底部に焦点を当てて三次元超微形態学的解析を実施する予定であったが,解析範囲を当初の予定より拡張した。これに伴い,本年度は三次元超微形態学的解析を集中して行ない,その代わり計画当初本年度に予定していた細胞マーカーの開発の一部については次年度に行なうことに変更した。本年度実施している三次元解析は細胞マーカーの開発に必要な細胞単離やそれに伴う解析に比べて必要な経費が少額であったため,以上の変更に伴って次年度の使用額が生じた。 次年度に持ち越した使用額の一部は,投稿論文の掲載に伴い投稿料として使用する予定である。またその残りは,telocyteを含めた各種間質細胞に対する新たな細胞マーカーの開発に必要な細胞の単離や各種分子生物学的解析などの解析費用として使用する予定である。
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