哺乳類の卵母細胞は、性成熟後に性周期に伴い休眠する原始卵胞から一部の卵胞が選抜され発育を開始した後、卵胞成熟により排卵に至るが、発育を開始した卵胞のうち99%が選択的に消失する。卵母細胞の休眠、活性化と選抜は性周期を有する動物種共通の現象であり、優良な子孫を残す戦略の一つであると考えられるが、その制御機構はほとんど不明である。そこで本研究では、卵形成の初期段階である原始卵胞における卵母細胞の休眠維持と卵発育を開始する活性化機構の解明を目的としている。原始卵胞は新生児期に形成を完了し、性成熟後の卵巣まで維持されるが、形成直後には休眠機構が正常に機能しない卵母細胞が存在し、個体の性成熟過程で休眠が維持できない卵母細胞は消失していくと考えられる。性成熟期個体の原始卵胞における卵母細胞は全て転写活性型のNSN型のクロマチン構造をとることから、クロマチン構造が休眠の維持機構に関与する可能性が考えられる。しかし、新生児期における卵母細胞のクロマチン構造は明らかにされていない。 そこで本年度は、原始卵胞の休眠維持機構におけるクロマチン構造の関与を明らかにするために、マウス新生児期、性成熟期の原始卵胞、一次卵胞の卵母細胞のクロマチン構造を、核のDNA染色を中心に解析した。その結果、新生児期、および性成熟期ともに原始卵胞の卵母細胞はNSN型が100%、転写不活性型のSN型が0%であった。一方、一次卵胞ではSN型の卵母細胞が新生児期では4.3%、性成熟後では33.3%であった。この結果から、原始卵胞にはSN型のクロマチン構造をもつ卵母細胞が、存在しない、または休眠が維持できず一次卵胞へと発育してしまう可能性が考えられ、原始卵胞における卵母細胞の休眠におけるNSN型のクロマチン形態の関与が示唆された。
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