研究課題
本研究は、これまで外胚葉由来と考えられてきた内分泌器官である下垂体前葉に関して、第四の胚葉として注目を集める神経堤細胞がその起源の一部を構成する可能性を検証し、下垂体組織幹細胞における多様性を解析するものである。前年度までの研究結果により、神経堤細胞の運命追跡が可能な遺伝子改変マウス(P0-Cre/flox-EGFP)の下垂体を用いることで、5種類の下垂体ホルモン産生細胞ならびにSOX2陽性の幹・前駆細胞に関して、それぞれの約10%が神経堤由来細胞であることを見出した。本年度は、成体下垂体の神経堤由来SOX2陽性細胞に焦点を当て、解析を進めた。神経堤由来と非神経堤由来のSOX2陽性細胞の増殖性に違いがあるのかを、P0-Cre/flox-EGFPマウスの初代培養系とsphere-forming assayで評価することを試みた。しかし、指標とするEGFPの蛍光強度が弱く、両者の区別が困難であることがわかった。一方で、P0-Cre/flox-EGFPマウス下垂体を用いた免疫組織化学的解析の結果、EGFP陽性細胞の一部でカルシウム結合型タンパク質S100bを発現する細胞が存在することを見出した。また、別の神経堤細胞マーカーであるSOX10を用いた解析から、SOX10陽性細胞の多くがS100bを発現することを確認した。そこで、S100bプロモーター下でGFPを発現するS100b/GFP-TGラットの下垂体から、SOX2陽性細胞塊を分取し、S100b/GFPの発現有無で性質の差を解析した。結果、SOX2陽性細胞の中でも、S100bを発現するサブタイプは、増殖性が高く、また、下垂体ホルモン産生細胞だけでなく、中胚葉や内胚葉系といった胚葉を超えた分化能を有することを見出した。本解析から、成体下垂体のSOX2陽性幹・前駆細胞の不均一性が証明でき、また、原著論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
成体下垂体に存在する神経堤由来ならびに非神経堤由来SOX2陽性細胞の性質的な違いに関して、解析途中であり、まだ結論に至っていない。しかし、成体下垂体SOX2陽性細胞における不均一性とS100bの発現有無による性質的な差異に関しては立証することができた。
S100bの発現有無によるSOX2陽性細胞の解析から、成体下垂体に存在するSOX2陽性細胞は均一ではなく、性質的な差異を有するものが存在することまでは解析ができた。来年度は最終年度であるため、特に神経堤由来と非神経堤由来SOX2陽性細胞間に性質的な差異があるのかを、評価し、結果を取りまとめる。
当初、初代培養を用いたSphere forming assayと抗体を用いた解析を行う予定であったが、解析方法に問題があり中断した。そのため、抗体や成長因子などの購入がなく、未使用額が生じた。来年度、セルソーターでEGFP発現細胞を分取した後にSphere forming assayを行う予定であり、それら試薬や解析用抗体の経費にあてる予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J Neuroendocrinol.
巻: 30 ページ: e12570
10.1111/jne.12570
Cell and Tissue Res.
巻: 371 ページ: 339-350
10.1007/s00441-017-2758-x
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 5533
10.1038/s41598-018-23923-0
PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0196029
10.1371/journal.pone.0196029
巻: 37 ページ: 99-112
10.1007/s00441-017-2646-4
J Reprod Dev.
巻: 63 ページ: 605-609
10.1262/jrd.2017-091
巻: 372 ページ: 77-90
10.1007/s00441-017-2724-7