研究実績の概要 |
近年確立された胎児生殖巣を用いた多能性幹細胞からの卵子の作出法をヒトなど胎児生殖巣の取得が困難な動物に応用すべく、生殖巣細胞の誘導法の確立を試みた。始めに、各分化マウスレポーターES細胞を樹立した。具体的には、中胚葉分化を示すT-GFP ES細胞、生殖巣の前駆細胞を含む中央側の側板中胚葉細胞(M-LPM)への分化を示すOsr1-GFP, Foxf1-tdTomato ES細胞 、胎児生殖巣の分化を示すOsr1-GFP, Gata4-CFP, Ad4BP-mRFP ES細胞をCrispr-Cas9法を用い効率よく樹立した。 これを用いES細胞をエピブラスト、中胚葉細胞さらに私が発見した前駆細胞である腹側M-LPM細胞を経て生殖巣細胞に分化させる誘導法を確立した(Yoshino, T. et al. Nat. Commun. 2016) 。この際、初期発生で働く分子機構を利用する。中胚葉誘導はWntやBMP4シグナルの活性化により、M-LPM細胞分化は中胚葉成熟を担うレチノイン酸、中央側方の軸形成を担うBMP4を適切な濃度で処理する。M-LPM細胞の腹側に位置する生殖巣の細胞を誘導のため腹側化を担うSHHを処理する。本法ではM-LPM細胞の秩序だった出現パターンから、初期発生を模倣して分化することが伺えた。すなわち、誘導体でも初期胚同様、M-LPMは二本の筋状に誘導される。その後、生殖巣形成に関わるFgf9などを処理し、生殖巣の分化マーカーGata4などを発現する細胞が誘導された。この速度は、初期発生をよく模倣する。マウスES細胞に相当する3.5日目胚(E3.5)は各分化段階を経て8日後に生殖巣細胞へと分化するが、本誘導でもマウスES細胞は各分化段階も適切な時期に経て8日後に生殖巣原基細胞へと分化する。以上により初期発生過程を模倣して生殖巣細胞を分化誘導する系を確立できた。
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