研究課題/領域番号 |
16K18822
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沖 嘉尚 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (70525667)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脱分化 / 脂肪細胞 / 細胞形態 / アクチン細胞骨格 |
研究実績の概要 |
平成29年度では、ブタ成熟脂肪細胞の脱分化過程で消失する脂肪滴と細胞形態の変化に伴うアクチン細胞骨格の局在および配向との関連性を調べた。これまでの天井培養では培養期間を1週間に設定していため、接着のタイミングが早い脂肪細胞と遅い脂肪細胞が存在し、細胞群全体を経時的に観察することは困難であった。そこで、脂肪細胞の単離に使用するフィルターを変更することで培養する脂肪細胞のサイズを均一化し、さらに脂肪細胞が接着するカバースリップにⅠ型コラーゲンを塗布することによって、細胞接着率を顕著に向上させることに成功した。これにより天井培養の期間短縮が可能となり、培養24時間後にカバースリップを反転することでまだ接着していない脂肪細胞を除去し、細胞接着のタイミングを揃えることで、細胞群全体の形態変化を経時的に観察することが可能となった。単離直後の脂肪細胞は細胞質を一つの大きな脂肪滴に占有されており、アクチンは細胞表面に局在した。培養24時間後、脂肪細胞は単胞性の脂肪滴を維持した状態で糸状仮足を形成し、仮足部位にはアクチンの集積が認められた。培養48時間後、脂肪細胞は脂肪滴の大きさを維持した状態で葉状仮足を形成し、仮足先端の細胞膜内側にアクチンの集積が認められた。培養96時間では、細胞質に多数の微小な脂肪滴をもつ線維芽細胞様脂肪細胞へと変化し、さらに伸展した葉状仮足内にアクチンファイバーが形成された。培養168時間後では、細胞質内の脂肪滴が消失し、細胞全体にアクチンストレスファイバーを形成した。さらに、脂肪細胞分化のマスターレギュレーターとして知られる核内転写因子PPARγが、アクチンファイバーが形成される培養48から96時間で顕著に減少することが分かった。以上の結果から、脂肪細胞の形態変化に伴うアクチンファイバーの形成が脂肪滴の消失に関連する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪細胞の単離方法および培養方法の変更によって、これまで困難であった脱分化過程における脂肪細胞集団の接着および形態変化のタイミングを揃えることに成功した。これによって、ブタ成熟脂肪細胞の脱分化過程においてアクチンファイバーの形成が脂肪滴の消失に関連する可能性が示された。さらに、脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγの発現がアクチンファイバーの形成によって制御される可能性も見出しており、当初の予定通り、来年度は脂肪細胞の脱分化に重要な因子の抽出を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
ブタ成熟脂肪細胞の脱分化過程におけるアクチンファイバーの形成がどのような分子シグナルを介してPPARγの発現および局在を制御するかを明らかにするため、アクチンに結合する転写因子をモチーフデータベースから推定し、パスウェイデータベースを利用しながら、PPARγの発現を直接あるいは間接的に制御する分子の同定を試みる。
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