研究実績の概要 |
平成28-29年度ではブタ成熟脂肪細胞の単離および培養方法の変更によって、脂肪細胞が接着するタイミングを揃えることに成功した。これによって、脂肪細胞の形態変化に伴うアクチンファイバーの形成が脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγの発現を抑制する可能性を見出した。平成30年度では、脂肪細胞およびDFATの遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析し、脂肪細胞の脱分化に重要な因子の推定を試みた。まず、脂肪細胞の脱分化過程において有意に発現上昇する遺伝子群をマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析によって抽出した。次に、Gene Ontlogyのアノテーション情報を使用して、それらの遺伝子群の中からアクチン結合活性 (GO:0003779) かつ 転写活性 (GO:0140110) に関連する遺伝子を絞り込み、脂肪細胞の脱分化において重要な役割をもつ候補遺伝子としてMKL1を抽出した。MKL1は前駆脂肪細胞の核内においてPPARγの発現抑制にかかわっており、脂肪分化に伴ってアクチンファイバーの脱重合が起こると、増加したモノマーのアクチンと結合することによってMKL1の核移行が阻害され、PPARγの発現が誘導されることが報告されている(Nobusue et al., 2014)。そこで、脱分化過程の脂肪細胞におけるMKL1の細胞内局在を調べた結果、単離直後および培養24時間後の脂肪細胞において細胞質に局在していたMKL1はアクチンファイバーが形成される培養48から96時間後にかけて核移行し、培養168時間後も核内に局在した。また、MKL1の核移行に伴ってPPARγの発現が減少し、脂肪滴が消失した。以上の結果から、MKL1は前駆脂肪細胞の分化とは逆のメカニズムによって、脂肪細胞の脱分化を制御する働きをもつ因子である可能性が示唆された。
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