研究課題
本年度は、まず本研究で用いるdsxF-KO系統の中腸でのトランスクリプトーム解析を行った。未吸血時の野生型雌成虫個体(以下:野生型雌)および、dsxF-KOヘテロ接合雌個体(以下、dsxF-KO雌)、さらに、吸血12時間後の野生型雌成虫および、dsxF-KO雌成虫から抽出したRNAを用いてRNA-Seq解析を行ったのち、野生型雌とdsxF-KO雌間で遺伝子発現量の比較を行った。その結果、未吸血状態で野生型雌とdsxF-KO雌で発現量に差のある遺伝子が10遺伝子であった。また吸血12時間後では49遺伝子に発現量に差が見られた。これら遺伝子についてホモロジー解析や他の昆虫種での解析の調査を行ったところ多くが機能不明であった。吸血12時間後にdsxF-KO雌で発現が低下している遺伝子のうち2つは、アミノ酸のドメイン解析から酵素活性を有し、1つはプロテアーゼ活性をもつこと推測された。これら遺伝子は定量PCR解析からも発現低下が確認できた。現在これらの遺伝子についてノックアウト実験を進めている。唾液腺の解析についてはSDS-PAGE解析ではdsxF-KO雌でタンパク質量に差のあるバンドが確認できなかった。また、RT-PCR解析では吸血に関与する唾液タンパク質遺伝子のaappについてはdsxF-KO雌で変化が見られなかった。その他の表現型解析として、吸血対象に対する吸血行動の有無について調べたところ、dsxF-KO雌は野生型と同等に吸血対象に対してプロービング行動を示すことが分かった。また、卵巣も縮小していることが確認できた。その一方で、精巣の形成は見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
dsxF-KO系統の中腸トランスクリプトーム解析が終了し、KO系統の中腸においてに発現量に有意差のある遺伝子が同定できた。dsxF-KO系統の血液消化不良はタンパク質分解や吸収に関わる遺伝子が抑制されていることを予想していたものの、発現量が低下している遺伝子が予想より少なく4遺伝子であったが、プロテアーゼ活性などの酵素活性を持った遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子についてノックアウト実験を進めている。また、発現が上昇する遺伝子についても解析を進める。一方で、唾液腺の遺伝子については吸血に関わるaapp遺伝子の発現解析やSDS-PAGE解析などからでは発現に変化が見られていない。
dsxF-KO雌の中腸で発現に有意差のあった遺伝子についてのノックアウト解析を進める。ノックアウトの方法はCRISPR/Cas9で行うが、ノックアウト効率が低い場合は、すでに研究代表者が実績のあるTALENによる方法を試みる。ノックアウト系統が得られた場合にはそれらにおける表現型解析(血液消化、不妊、致死など)を行い、遺伝子の機能を明らかにする。また、標的遺伝子が血液消化に必須な場合は系統化が困難な場合が予想されるが、その場合は注射当代での解析を行う。ノックアウト解析により血液消化に影響が出た場合は、その遺伝子産物に対する抗体を蚊に摂取させて血液消化、不妊、致死見られるか検証する。唾液腺で発現する遺伝子については、aapp遺伝子以外についてもqRT-PCR解析を進める。dsxF-KO系統に関して、卵巣の形態や成熟時にも表現型が見られるため、卵巣の遺伝子についても発現解析を行う。
一部の実験系の改良により、実験試薬・器具の使用量が節約できたことで購入量が減ったため。翌年度のノックアウト解析の試薬代・さらに進展した場合の抗体作製費に当てる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件)
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