研究課題
昨年度のトランスクリプトーム解析により明らかとなった、ハマダラカ(Anopheles stephensi)dsxF-KOヘテロ接合雌個体(以下、dsxF-KO雌)の吸血後12時間の中腸で野生型と比較して発現が低下する遺伝子のうち、酵素活性のあるものについてノックアウト系統作成のため、sgRNAを設計し、発現ベクターを作製した。また、CRIPSR/Cas9系確立のコントロールとして眼の色素遺伝子(kmo)と体色遺伝子(yellow)についても発現ベクターを作製した。転写させたsgRNAとCas9をハマダラカ卵へ顕微注入したが系統の樹立には至っていない。また、新たにdsxF-KO雌の吸血後24時間の中腸で野生型と比較して発現が変動する遺伝子のトランスクリプトーム解析を行った。その結果、5273遺伝子に発現量に差が見られ、発現上昇するものが2331遺伝子、低下するものが2942遺伝子であった。これら遺伝子についてホモロジー解析を行い、発現レベルが大きく低下するものにアミノペプチダーゼ、アンモニア代謝関連遺伝子、トランスポーターが含まれることを見出した。他の生物での栄養代謝における解析例の情報などから、これらは血液消化・吸収にも関与する可能性が予想される。一方で、消化酵素として知られるトリプシンやキモトリプシン類については、吸血後12時間及び24時間どちらでもあまり変化が見られていない。唾液腺の解析については、過去の報告から吸血時に関与していることが示唆されて唾液タンパク質遺伝子から6種類ついて、qRT-PCR解析を行い、dsxF-KO雌でも野生型と差がないことを見出した。
3: やや遅れている
実験計画に基づき、dsxF-KO系統と野生型系統で吸血後12時間の検体を用いてRNA-Seqによる発現比較解析を行なったところ、当初の想定に比べて発現が低下する遺伝子数が少なかった。そこで、さらに解析候補遺伝子を選別するために、新たにdsxF-KO雌の吸血後24時間の中腸トランスクリプトーム解析を行うことにした。そのため、検体採取とRNA-Seq後の解析も含めると当初の想定以上の時間が必要になった。しかしながら解析の結果、吸血後12時間に比べて発現量に有意差のある遺伝子を多数同定できた。現在、アミノペプチダーゼとアンモニア関連遺伝子について遺伝子クローニングし、ラボ系統での遺伝子配列の確認及びgRNAの設計を進めている。すでにノックアウトを進めている遺伝子(吸血後12時間で低下する遺伝子及びコントロール遺伝子)については系統を樹立できていないため、設定するgRNAの数を増やして顕微注入を行なっている。Cas9についてはmRNAの代わりにタンパク質を注入する方法でも試みている。
dsxF-KO雌で発現レベルが低下する遺伝子について、ノックアウト系統の樹立と解析を進める。dsxF-KO雌の吸血後24時間の中腸で発現レベルが大きく低下している遺伝子はかなり多い。そこで、他の生物での解析例の情報もなどから血液消化・吸収にも関与する可能性が予想される、アミノペプチダーゼ、アンモニア代謝関連遺伝子、トランスポーターなどの遺伝子について優先してノックアウト解析を進める予定である。また、発現が上昇する遺伝子についても相同性や構造の解析を行い、代謝への影響の可能性が推測される遺伝子を選別する。ノックアウトの方法はCRISPR/Cas9で行うが、今の所系統の樹立に至っていないため、すでに研究代表者が実績のあるTALENによる方法も検討する。ノックアウト系統が得られた場合にはそれらにおける表現型解析(血液消化、不妊、致死など)を行い、血液消化に関わるかを明らかにする。
実験計画に基づき、dsxF-KO系統と野生型系統で吸血後12時間の検体を用いてRNA-Seqによる発現比較解析を行なったところ、当初の想定に比べて発現が低下する遺伝子数が少なかった。そこで、さらに解析候補遺伝子を選別するために他の条件でもRNA-Seqを用いた解析を行うことにした。そのため、RNA-Seq後の解析を行うために次年度に繰り越しす必要が生じたたため。遺伝子発現解析などに必要な分子生物学用試薬・キット類、合成オリゴなど、及び成果発表のための旅費(2日間x1回)に使用する。
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