研究課題/領域番号 |
16K18825
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
大出 高弘 基礎生物学研究所, 進化発生研究部門, 助教 (60742111)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 形態進化 / 新奇形質 / 進化発生 / 昆虫 |
研究実績の概要 |
本研究では、有翅昆虫と無翅昆虫の発生を比較することにより、翅の進化的起源およびその進化メカニズムを明らかにすることを目的としている。 キイロショウジョウバエの翅発生については多くの知見が蓄積されているが、(1)完全変態昆虫であること、(2)胚期に形成された成虫原基から成虫構造が形成されること、という2つの点から翅を獲得した直後の状態から大きく派生した発生様式であると考えられた。そこでまず、祖先的な有翅昆虫の発生レファレンスとして不完全変態昆虫であるフタホシコオロギの翅発生を調査した。ショウジョウバエ翅原基パターン形成に関わる遺伝子群のオルソログの発現パターンをフタホシコオロギで調査した結果、翅形成に重要な役割を担う転写因子の空間的発現パターンが、胚期ですでに形成されていることが明らかとなった。そこで、これらの転写因子をコードする遺伝子の機能阻害を行ったところ、孵化幼虫に胸部背板の形成異常が観察された。また、同個体の成虫は翅を大きく欠損した表現型を示したことから、不完全変態昆虫では、胚期に形成された背板コンパートメントの一部が翅へと分化することが示唆された。 この胚期におけるパターン形成の、無翅昆虫における保存性について調査する目的で、無翅昆虫マダラシミで同様のin situ発現解析を行った結果、調査した転写因子の多くが有翅昆虫と類似した空間的発現パターンを示すことが明らかとなった。マダラシミは翅が進化する以前の体制を保持していると考えられ、有翅昆虫で翅が形成される位置には、側背板と呼ばれる背板の突出構造が観察される。今後、マダラシミにおける転写因子の機能解析により、翅の側背板起源説の検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非モデル昆虫で新たな実験系を立ち上げる必要があり、計画段階では成否が予測できない部分もあったが、ほぼ当初の計画通りに進行しており、順調にデータ収集ができている。また、平成29年度に行う解析の準備も着実に進んでおり、本研究は問題なく進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果を踏まえて、ノックアウト個体の表現型解析、エンハンサートラップ系統を用いた細胞系譜ライブイメージング解析、さらにゲノム情報を利用した遺伝子発現制御配列の比較解析を行い、昆虫翅の進化メカニズムを発生プログラム上の変化及びゲノム配列上の変化から説明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初顕微鏡の購入を計画していたが、所属機関の備品を利用することで今年度は購入せずに研究を遂行することができたため、物品費の支出を削減することができた。また、徳島大学でデータ収集を行う目的で、旅費の支出を計画していたが、所属機関で円滑にフタホシコオロギの飼育環境を整えることができたため、旅費の支出を削減することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子発現・機能解析に必要となる物品の購入、また、国際共同研究のための旅費及び物品費として使用する計画である。
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