研究課題/領域番号 |
16K18830
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
村井 良徳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究員 (30581847)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高山植物 / 化学的多様性 / フェノール化合物 / フラボノイド |
研究実績の概要 |
本研究では「日本の高山植物は、種のみならず蓄積される化学物質も多様化しているか?」という点に着目して、フラボノイドやケイ皮酸誘導体などのフェノール化合物を対象に、その多様性を調査している。本年度は北岳をはじめとする山岳地域において、関係各所からの許可に基づき、絶滅危惧種を含む50種以上の高山植物をサンプリングした。これらの植物については、証拠標本と共に抽出物も作製し、HPLC分析に供してフェノール化合物のプロファイリングを進めている。 昨年度までに分析を進めていた植物についても、着実に結果が得られている。例えば、早池峰山固有のハヤチネウスユキソウの葉からは、クロロゲン酸やレオントポジン酸などが単離された。これらの成分は、ヨーロッパのセイヨウウスユキソウとの共通成分であった。特にクロロゲン酸については、その他の高山植物の葉からも次々と見つかっている。さらに日本産との比較として、ヒマラヤ地域の高山植物についても調査したところ、マメ科のテルモプシス・バルバタの花からもクロロゲン酸が単離された。この成分は抗酸化能力の高い紫外線防御物質であり、紫外線をはじめとする厳しい環境ストレスにさらされる高山植物にこのような成分が蓄積されているのは、合理的な結果と考えられる。 また、高山植物を低地に移植した際のフェノール化合物の質的・量的な変動についても調査が進んでおり、生育環境に対応したフェノール化合物の蓄積パターンが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、北岳をはじめとする山域(生物多様性ホットスポット地域が中心)で調査を実施している。各山域でサンプリングした高山植物については、証拠標本を作製したうえで、化学成分の調査を開始している。 定量分析用の抽出物を作製すると共に、定性分析用のサンプルも抽出した。定量分析用のサンプルについては、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)により分析を行い、各植物種に含まれるフェノール化合物の組成を調査している。また一部の植物種に関しては、ペーパークロマトグラフィーやカラムクロマトグラフィーを用いて各成分を分離し、UV吸収スペクトルやLC-MSの測定、酸加水分解などにより同定作業を行っている。 着実にフェノール化合物のプロファイリングが進んでおり、本年度もその成果の一部を、国内学会における2件の口頭発表(1件はシンポジウムにおける招待講演)で報告した。また日本産以外にも、ヒマラヤ地域の高山植物のフェノール化合物についても興味深い知見が得られたため、論文として報告している。 さらに、高山植物の化学成分の変動を調査するため、高所から低所への移植実験や、その際には高山植物の栽培方法の検討も実施している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにサンプリングした高山植物のフェノール化合物の定量および定性分析を進める。定性分析まで完了した種については、速やかに結果をまとめて学会や論文などで発表する。さらに、低所への移植後のフェノール化合物の質的・量的変化の調査や、低温・紫外線・乾燥などの各種環境要因による処理実験などを実施して行く予定である。但し、後者の実験については、実験条件の設定や環境処理実験にも時間を要するため、フェノール化合物の定性・定量分析や、低地への移植実験を優先的に実施して、成果をまとめて行く。
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