研究課題
本研究では「日本の高山植物は、種のみならず蓄積される化学物質も多様化しているのか?」という点に着目して、フラボノイドやケイ皮酸誘導体などのフェノール化合物を対象に、その多様性を調査した。日本の中部山岳地域から北海道にかけての山岳地域において、関係各所からの許可に基づきサンプリングを行い、絶滅危惧種を含む幅広い分類群の高山植物を研究に供した。これらの植物は、証拠標本と共に成分分析用の抽出物を作製し、定性分析およびHPLCによる定量分析に供することにより、フェノール化合物のプロファイリングを進めた。本年度は、前年度までにサンプリングした50種を超える高山植物の葉の抽出物をHPLC分析に供することにより、葉に含まれるフェノール化合物の蓄積パターンを明らかにした。さらに各成分の定性分析も推進した結果、植物種によりフェノール化合物の組成には一定の多様性がある一方で、主要成分には共通成分も多くみられることが明らかとなった。その主な成分としては、例えばクロロゲン酸やクェルセチン(ケルセチン)配糖体、ルテオリン配糖体などのような、抗酸化能力が高く紫外線防御などの機能も有する成分であった。前年度までにプロファイリングが完了していた植物種と同じ傾向が、本年度解析した他の高山植物でも観察された。紫外線をはじめとする厳しい環境ストレスにさらされる高山植物に、このような成分が蓄積されているのは、合理的な結果と考えられる。過酷な環境への化学的な適応により、主要成分に類似性が見られることが示唆された。また、数種の高山植物を低地に移植した際のフェノール化合物の質的・量的な変動についても調査を行ったが、低地に移植すると、前述の主要成分である抗酸化性の紫外線防御物質が減少する傾向も明らかになった。
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Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series B
巻: 45 ページ: 未定
Natural Product Communications
巻: 13 ページ: 551-554