研究課題/領域番号 |
16K18833
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
川田 佳子 (押田佳子) 日本大学, 理工学部, 准教授 (10465271)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サナトリウム / メディカルツーリズム / 南湖院 / 茅ヶ崎 / 結核療養所 |
研究実績の概要 |
本研究では近代に最多のサナトリウム群が形成された湘南地域において最大のサナトリウムであった茅ヶ崎「南湖院」に着目し、南湖院設立に伴う茅ヶ崎の発展と、療養者・見舞客の行動記録より把握した南湖院内外におけるレクリエーションの実態を明らかにすることで,近代メディカルツーリズムの端緒を捉えることを目的とした。 その結果、南湖院設立に伴う茅ヶ崎の発展については、南湖院に係わる歴史的特徴から「南湖院以前」「南湖院開設期」「南湖院拡大期」「南湖院衰退期」の4期に分類出来、南湖院の開設・拡大が茅ケ崎の発展に大きく寄与した一方で、その後のまちづくりにおいて湘南観光のみが重要視されるようになり、「負」の要素となるサナトリウムが不要と判断されたプロセスを捉えた。 一方、南湖院内外におけるレクリエーションは、関係者の手記からの読み取りより、療養者の病状に応じて「病棟内」「病棟外」「敷地外」において展開され、特に軽度のA患者およびその見舞客によって発見された「敷地外」の「砂浜」や「馬入川」をはじめとする地域の魅力は, 茅ヶ崎のメディカルツーリズムにおける貴重な観光資源といえ、南湖院におけるメディカルツーリズムはこれらの発掘に大きく貢献したといえるであろう。 以上より、南湖院の設立が、茅ヶ崎の発展に大きく寄与しただけでなく、メディカルツーリズムを通した地域観光資源の発掘へと繋がったことを捉えた。しかしながら、南湖院によって発掘され、発展した茅ヶ崎の観光が、別荘族をはじめとする療養者以外に価値を見出されたことで、「負」のイメージを併せ持つ南湖院自体の存在価値を問うこととなり、最終的に茅ヶ崎における南湖院および近代メディカルツーリズムは終焉を迎えたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
鎌倉養生院(現・清川病院)および杏雲堂病院平塚分院については、資料収集および療養下宿に関係する協力者を募る段階で、事前に調査協力を依頼していた方が鬼籍に入るなどの事態が発生したため、元調査対象者のご家族への資料提供の依頼や別の対象者を探す、などの手続きが発生した。 以上の理由により、ヒアリング調査の実施までに時間を要する結果となった。 さらに、本研究における最初の調査が資料数が多く、かつ湘南最大のサナトリウムである「南湖院」を対象としたため、資料分析、ヒアリング調査に多くの時間を費やすこととなった。以上の理由から、茅ヶ崎以外の自治体に立地した近代サナトリウムについては十分な調査が出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
既に調査資料およびヒアリング調査準備が整っている杏雲堂病院平塚分院については、早々に調査を実施し、療養者および見舞客の行動や近隣の都市開発履歴などを地形図上にプロットするなど空間的に捉えることで、近代サナトリウムにおけるレクリエーションの実態を把握する予定である。 「 鎌倉養生院(現・清川病院)」など鎌倉市域の3施設については、これまでに市史の調査等で情報を有している郷土史家を訪ね、ヒアリング調査および文献調査を実施する。また、後継施設がある6施設については、現況の施設管理者経営者に連絡した上で、資料調査・ヒアリング調査を実施し、療養者によって実施された各地のメディカルツーリズムの実態について分析する。 また、後継施設が存在しない2施設については、文献から読み取れる範囲でのメディカルツーリズムの実態を把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において研究資料とした療養者および面会者の手記の多くが、明治・大正期に発行されたものであり、そのほとんどが現在絶版となっている。国木田独歩や樋口一葉など著名な作家のものについては比較的入手が容易であったが、市史の基礎資料となるような一市民のものについては古書店などに照会した上で、取り寄せしていたため、調査に至るまでに時間がかかり、年度内での購入に至らなかった。 以上の理由により、文献調査・ヒアリング調査に関わる次年度使用額が生じる結果となった。なお、比較的規模が大きいサナトリウムであった、南湖院、杏雲堂病院平塚分院に係わる手記については概ね所在を把握している。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の通り、南湖院、杏雲堂病院平塚分院については、資料の所在を概ね把握しており、購入手続き方法についても確認している。これらについては、随時購入を進め、迅速な調査遂行に努める予定である。また、他のサナトリウムについても、郷土史家を通じて、購入出来得る文献については手続きを進めている段階にある。また、療養者の末裔が所蔵しているような資料については、資料提供に関わる謝礼や古書文献専門の複写などの手続きを行い、迅速かつ適切な調査が遂行できるような予算執行計画を立てている。
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