研究課題/領域番号 |
16K18834
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
島田 貴士 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 助教 (10713828)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホスファチジルイノシトールリン酸 / PtdIns(4,5)P2 / PIP5キナーゼ / 炭疽病菌 / シロイヌナズナ / アクチン |
研究実績の概要 |
ホスファチジルイノシトールリン酸は,微量ながらも重要な働きを担う生体膜成分である.申請者は病原糸状菌である炭疽病菌が植物に感染した際の,ホスファチジルイノシトールリン酸の動態と,病原菌に対する生理学的役割の解明を目指している. これまでのシロイヌナズナと炭疽病菌を用いた研究から,ホスファチジルイノシトールリン酸のひとつであるPtdIns(4,5)P2と,その合成酵素であるPIP5キナーゼが,炭疽病菌感染時の侵入菌糸嚢膜に非常に多く集積するようになることを見出している.さらに,PIP5キナーゼの過剰発現植物では,炭疽病菌の感染に弱くなることを見出している. 現在,PtdIns(4,5)P2をPtdIns4Pへと変換する酵素・5ホスファターゼの過剰発現シロイヌナズナを作製している.平成29年度の研究により,上記の過剰発現シロイヌナズナの作出に成功した.この過剰発現体は,PtdIns(4,5)P2の減少により,炭疽病菌感染に強くなるのではないかと期待して,現在,炭疽病菌の感染実験を行っている. 本研究課題を遂行することにより,炭疽病菌感染により,アクチン繊維が断片化するという現象を見出した.平成29年度の研究により,アクチン脱重合試薬であるLatBを前処理して,アクチン繊維を人為的に崩壊させたシロイヌナズナに炭疽病菌を感染させると,感染に弱くなることが明らかになった.このことから,アクチン繊維の断片化は,炭疽病菌の感染を促進することになることが示唆された.今後は,アクチン繊維を逆に安定化させることで,炭疽病菌の感染に対して抵抗性を持たせることを目指して,研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホスファチジルイノシトールリン酸に関わる平成29年度の研究では,5ホスファターゼの過剰発現シロイヌナズナの作出に成功した.RT-PCRにより,5ホスファターゼが過剰発現していることを確認した.この過剰発現体に炭疽病菌の感染させ,抵抗性がどのように変化するかを観察している.また,PtdIns(4,5)P2とPIP5キナーゼの研究については,論文の投稿に向けて準備を進めている. アクチン繊維に関わる平成29年度の研究では,炭疽病菌感染において,アクチン繊維の崩壊が炭疽病菌の感染に有利になるか,不利になるかを調べている.アクチン重合阻害剤であるLatBをシロイヌナズナに前処理して,アクチン繊維を人為的に崩壊させた.その後,炭疽病菌を感染させると,菌糸の侵入率が上昇し,シロイヌナズナは感染に弱くなることが明らかになった.このことから,炭疽病菌はアクチン繊維の断片化を引き起こし,組織への菌糸の侵入を有利に進めていることが示唆された. 私は現在,葉に脂質を異常蓄積する変異体を数系統単離することに成功している.これらの変異体は脂質合成に異常があると考えられる.これらの変異体における炭疽病菌抵抗性を測定し,病害抵抗性と,広く脂質を対象とした生理応答のかかわりについて,研究を進めている. 本研究の最大の目標であった,PtdIns(4,5)P2が関わる炭疽病菌の感染生理について,平成29年度において,研究成果がまとまり,論文を執筆できるまでに至った.さらに,本研究からアクチン繊維の動態に関わる新たな知見が得られ,次のステップへと進むことができるようになった.これらのことから,研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
PtdIns(4,5)P2とPIP5キナーゼの研究について,論文を投稿,受理されることを目指す.さらなる研究の発展のために,PtdIns(4,5)P2とPIP5キナーゼに関わりのあるsmall GTPaseであるROPの動態についても,引き続き,観察を行っていく.炭疽病菌の侵入菌糸嚢膜に局在する他の因子の同定のために,PIP5キナーゼと結合するタンパク質の同定を目指す.また,5ホスファターゼ過剰発現シロイヌナズナの病害抵抗性についても,試験を行い,病害に強い植物の作出を目指す. 炭疽病菌感染時のアクチン繊維の動態については,アクチン繊維は断片化と同時に,束化している様子が見られている.厳密な定量実験を行うために,アクチン繊維の束化の度合いを,画像解析により測定し,数値化する予定である.また,アクチン繊維の脱重合阻害剤であるジャスプラキノライドを用いた実験により,アクチン繊維を安定化させることで,炭疽病菌感染に強くなることを期待して,実験を行っている.こちらの結果についても平成30年度内における論文の投稿,受理を目指す. 脂質異常変異体を用いた実験では,炭疽病菌の感染に抵抗性になる,または弱くなる変異体を見つけ出すことを目指す.現在は,PtdIns(4,5)P2と炭疽病菌感染の関わりのみが観察されているが,他の脂質との関係が見いだせれば,研究のさらなるステップアップにつながるのではないかと期待している.
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