研究実績の概要 |
ホスファチジルイノシトールリン酸は,生体膜の構成成分として重要な役割を果たす微量脂質である.私は,病原糸状菌(カビ)のひとつである炭疽病菌が植物に感染した時に起こるホスファチジルイノシトールリン酸の細胞内動態に着目した研究を行っている.2017年度までの研究から,ホスファチジルイノシトールリン酸のひとつ・PI(4,5)P2と,その合成酵素であるPIP5キナーゼが,炭疽病菌感染時の侵入菌糸嚢膜に集積することを発見している.また,PIP5キナーゼを過剰発現したシロイヌナズナでは,炭疽病菌の感染に弱くなることが明らかになっている. これまでの研究では,シロイヌナズナにアブラナ科野菜類炭疽病菌を接種した際の侵入菌糸嚢膜を観察してきた.2018年度では,ベンサミアーナタバコにウリ類炭疽病菌を接種した際の侵入菌糸嚢膜を観察したところ,この宿主-病原菌の組み合わせにおいても,PI(4,5)P2が侵入菌糸嚢膜に集積することが明らかになった.このことは,PI(4,5)P2の集積現象が,種を超えた共通の機構であることを示している.本研究成果をまとめた研究論文が,2019年4月にPlant & cell physiology誌に受理されている. 2017年度に,シロイヌナズナにアブラナ科野菜類炭疽病菌を感染させることにより,アクチン繊維が断片化するという現象を見出した.また,画像解析により,アクチン繊維の断片化とともに,束化も進行していることが明らかになった.シロイヌナズナには感染しないクワ炭疽病菌を接種した際には,アクチン繊維の断片化は起こらないことが判明した.これらのアクチン繊維の動態について,炭疽病菌の感染生理と密接なかかわりがあると考えている.
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