研究課題/領域番号 |
16K18837
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
樋口 裕次郎 九州大学, 農学研究院, 助教 (50732765)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 黄麹菌 / 初期エンドソーム / タンパク質分泌 / 細胞分化 / 細胞内膜輸送 |
研究実績の概要 |
黄麹菌Aspergillus oryzaeは我が国の発酵・醸造産業において古くから利用されてきた“国菌”であり、有用タンパク質の高い分泌能力を有する。細胞内膜輸送経路において、初期エンドソーム動態は、微小管系モータータンパク質によって制御されている。糸状菌A. nidulansとUstilago maydisにおいて、初期エンドソームとモータータンパク質のリンカーとしてそれぞれHookAとHok1が存在し、それらの遺伝子破壊株では初期エンドソーム動態の停止が報告されている。そこで本研究では、黄麹菌におけるHookA及びHok1のオルソログであるAoHok1の遺伝子破壊株を作製し、初期エンドソーム動態の生理学的な機能解析を行った。まずAohok1破壊株の生育解析を行ったところ、野生株に比べて生育が低下し、特に富栄養培地においてコロニー形態の顕著な異常が見られた。さらに、野生株に比べて分生子形成数の減少、一方で菌核形成数の増加が見られ、Aohok1破壊株では分化制御に異常をきたしていることが示唆された。実際に、Aohok1破壊株では初期エンドソームが停止しているかを確認するため、初期エンドソームマーカーのEGFP-AoRab5を用いて解析を行った。その結果、野生株において観察される初期エンドソームの恒常的な動態がAohok1破壊株ではほぼ見られなかった。さらにタンパク質分泌経路に関して解析するために、分泌小胞のマーカーとしてEGFP-AoSnc1をそれぞれ用いた。Aohok1破壊株では、菌糸先端に見られる分泌小胞の集合体であるスピッツェンケルパーの分布に異常が見られた。そこでタンパク質分泌解析をしたところ、Aohok1破壊株では野生株に比べてα-アミラーゼの有意な低下が見られた。以上の結果から、初期エンドソーム動態は細胞の分化制御およびタンパク質分泌に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた破壊株作製に短期間で成功し、またその表現型解析において詳細なデータが既に得られている。所属学会において成果発表も行っており、追加データ取得とともに現在英語論文としてまとめている段階であるため。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、既にまとまっているデータを英語論文として投稿する。併せて追加の表現型解析により、有用物質生産に初期エンドソーム動態が及ぼす影響に関してさらなる解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より早く目的の破壊株が取得できたことにより、菌株作製・DNAクローニングにかかる費用が少なく済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでにまとまっているデータに加えて、新たな展開で研究を進めていく上で、さらなる菌株作製や顕微鏡解析に必要な試薬の購入費用に充てる。
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