本課題では、ボリルベンザインを用いた種々の反応において、ホウ素の持つ性質を最大限利用することで、選択性を制御可能とすることを目的とした。 最終年度ではまず、ボリルベンザインとアジドとの(3+2)反応において、ホウ素上の保護基の効果を検討した。従来のボリルベンザインの反応では、立体効果よりも電子的な効果の方が優位に現れていたが、ホウ素上の保護基によって、立体効果の強弱が変化することが判明した。この立体効果の強弱は、単純な置換基のかさ高さだけでなく、ボリル基の平面性が大きく関わっていることも実験および計算化学による遷移状態計算から示唆された。その結果から、ホウ素上の置換基を調整することで、選択性を制御できないかと考え検討を行ったが、ベンザイン反応に耐える最適な保護基を見出すには致らなかった。しかし、種々の保護基を持つボリル基が、ベンザイン反応の遷移状態においてどの様な振る舞いを見せるか、どの程度立体的な影響を持つのかの知見を得ることができた。 また、アミン類の求核付加反応では、溶媒の性質によって選択性が大きく変化するという知見が以前からあったため、さらに詳細にその効果を調べるべくホウ素上の保護基と溶媒それぞれの効果について検討した。その結果、保護基の中でも水素結合を容易に形成できる部位を持つボリル基が、溶媒効果による選択性の変化に敏感であることが判明した。 以上の結果から、ボリルベンザインはホウ素の持つ独特な性質により、反応条件を少し変化させるだけで、反応性・選択性の大幅な変化を生みだすことが可能であると示すことができた。これらの選択性制御法を利用することで、ボリルベンザインを利用した新しい多環式化合物の合成が期待できる。
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